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【現役看護師が直伝】介護施設での看取りケアとご家族ができる3つの心構え

ご高齢の方が亡くなる場所というと「病院」を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、近年では共働き世帯が増えて家庭での介護が難しいなどの理由から「介護施設」での看取りも増えているのが現状です。

どこで、どのようなケアを受けて、どんな最期を迎えるか……。直面しないと考えるのは難しい問題ですよね。病院での看取りは想像できるけど、介護施設での看取りはなかなか想像しづらいのではないでしょうか

看護師ライター

ayaさん

今回は、看護師として介護施設に現役で勤務、かつ終末期ケア専門士の資格をもつ筆者が、介護施設での看取りケアの流れと、ご家族に必要な3つの心構えをご紹介します。

看取りケアとは

看取り(別名:看取りケア看取り介護)とは、一般的に以下のように定義されています。[1]

近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること。

公益社団法人全国老人福祉施設協議会>看取り介護指針・説明支援ツール(平成27年度介護報酬改定対応版)(平成26年度/老健事業)>p4
看護師ライター

ayaさん

看取りケアに似た言葉として「緩和ケア」や「ターミナルケア」があります。

以下のような違いがあるので覚えておきましょう。

緩和ケア身体的・精神的苦痛を予防し和らげることを目的としたケア
ターミナルケア病気で余命いくばくの人とその家族が、ターミナル(終末期)*を迎えたときに穏やかに過ごせるように行うケア
緩和ケアとターミナルケアの違い

ターミナル(終末期)*:病気になった人が積極的な治療を中止し、生活の質を向上させることを目的として行うケア

介護施設での看取りの流れ

介護施設での看取りの流れについて、4つの時期に分類して説明します。もちろんこの通りにならない場合もあります。今回は、体力や食欲の低下した老衰の状態でお亡くなりになるケースを取り上げてみましょう。[2]

①入所期

入所期とは、介護施設に入所し、心身が安定した状態で生活できている時期です。

看護師ライター

ayaさん

高齢で体力・食欲の低下や持病がありながらも、今の健康状態を最良だとして維持することを目標に、新たな病気や感染症の予防、生活の質の向上につとめます

また、入所の時点で、施設側から看取りに関する説明があります。つまり、入所の段階ですでに看取りは始まっているのです。

②不安定期

不安定期は、見た目は入所期と変わりませんが、血液検査のデータが異常だったり、食事や水分が摂れなくなったりする時期です。

進行すると、元気がなくなり、床にふせる時間が徐々に増えてきます

看護師ライター

ayaさん

脈や呼吸状態を含む全身の変化や、急に活動が活発になったり、うとうとしたりする状態を繰り返す「せん妄」状態がみられることもあります。

不安定期になると、ご家族や可能であればご本人の意向を再度確認することがほとんどです。入所期に意向確認したときと気持ちが変わっていれば、変更することも可能です。

③看取り期

病状が不安定期からさらに悪化して、全身状態が低下する時期が看取り期です。

看護師ライター

ayaさん

医師が治療しても回復の見込みがないと判断した場合、医師や看護師などから今後の意向を聞かれます。看取りケアを希望するときは同意書にサインしましょう。

看取りケアに同意した後は、個室に移動してご家族での時間を多くとっていただきます。遠方にお住まいでなかなか面会できない方にも声かけをすると良いでしょう。

④重篤期

重篤期は、危篤症状があり、数時間~数日でお亡くなりになる可能性が高い時期をいいます。以下は、重篤期に見られる症状の一例です。

  • 食事が全く摂れない
  • ほとんど反応がない
  • 手先・足先が冷たく紫色になる
  • 呼吸の際に顎が動いたり休む時間が増えたりする
  • 血圧が測定できない
  • 尿量が減る
看護師ライター

ayaさん

上記の症状は一見苦しそうに見えるかもしれませんが、亡くなる前のごく自然な反応です。

そのため、本人はほとんど苦痛を感じていないと言われています。[3]

いわゆる最期のときをご家族と一緒に過ごしていただく時期が重篤期です。

【看護師目線】介護施設での看取りケア経験

ここで、筆者が実際に関わった看取りの経験談をご紹介します。

介護施設に入所してきたのは90代の男性の方で、今までは奥様と2人暮らしをしていました。ご本人は認知症になっているのに加えて奥様による老老介護*という大変な状態でしたが、施設に空きが出たことにより長期入所となりました。

入所直後から「家に帰りたい」と本人から強く訴えられ、施設の車で自宅周辺までドライブに行くこともしばしば……。ご本人にお話を聞いてみると、ご自宅の畑や残してきた奥様を心配していることや、自宅から見る風景が好きなのだということがわかりました。

しばらくすると体力の低下とともに食事量も減っていき、看取りの時期を迎えます。このときご家族の心に引っかかったのが、本人がいつも言っていた「家に帰りたい」という言葉

自宅で看取ることを決心されたご家族は、医師や施設職員と何度も話し合い、看取りの状態で本人を自宅へ迎えます

看護師ライター

ayaさん

願いがかなったご本人は、最期はご自宅で家族と濃密な時間を過ごしてお亡くなりになりました

老老介護*:高齢者が高齢者を介護する状態のこと。

ご家族に必要な3つの心構え

ここまで、看取りに関する知識や経験談についてお話をしてきました。ここでは、筆者が実際に介護施設での看取りで感じた、ご家族に知っておいてもらいたい3つの心構えをお伝えします。

看護師ライター

ayaさん

今からでも実践できる内容ですので、ぜひ参考にしてください。

①早い段階から身内で何度も話し合っておく

人はいつか必ず亡くなります。ですが「死」に関する話はタブーになりがちですよね。

看護師ライター

ayaさん

しかし、いざというときどうするかを、ぜひご本人と事前に話し合うことをおすすめします。

現代は家族の形も多様化しています。お子さんが遠方にお住まいで、主なお世話を親族にお願いしているお年寄りも少なくありません。その際は親族の方なども含めてお話をしてください。みなさんで話すときは、以下の内容を取り上げてみましょう。

  • 人生の最期をどこで迎える?(自宅・病院・施設など)
  • 心臓マッサージや人工呼吸器などの延命措置は希望する?
  • 胃ろう*や経管栄養*などは希望する?

病気等でご本人の判断力や理解力が低下していることも想定されます。その場合には、ご本人が何気なく話していた内容が、ご本人の想いを知るための重要な手がかりになります

ご本人の想いを組みながら、ご家族や親類の方に代理の意思決定していただくこともあるため、日常的なコミュニケーションも大切にしていきましょう。

胃ろう*:お腹に小さな穴を開けてチューブを通し、穴から胃へ栄養剤を入れる医療処置。

経管栄養*:鼻や胃などにチューブを入れ、直接胃へ栄養剤を投与する方法。胃ろうも経管栄養に含まれる。

②困っていることは他の家族や施設の職員に相談する

介護施設での看取りケアは、初めてのことだらけでわからないことも多いはずです。また、大切なご家族や親類が亡くなる喪失感を受け入れられないこともあるでしょう

看護師ライター

ayaさん

他のご家族や施設職員に不安や苦しい想いを吐き出すことで、気持ちに余裕が生まれることがあります。遠慮なく相談してみてください。

③ご本人に寄り添う

弱っていくご本人に寄り添うことも大事な「看取りケア」です。ぜひご本人がお話できるうちに、いろんな方と交流できる機会を設けてあげましょう。

お顔を拭いたり、手足を洗うなどご家族にできるケアもあります。施設職員に聞いて、一緒に行ってみるのも良いでしょう。また、ご本人に食べさせたいものや部屋に持ち込みたいものがある場合には、必ず施設職員に相談してください。

看取り期になってからは、時間が進めば進むほど、ご本人との意思疎通が難しくなるのが一般的です。

看護師ライター

ayaさん

可能な限りご本人のそばにいて、残された貴重な時間を一緒に過ごしてください。

看取りは逝くものも残されるものも納得できるものに

「看取り」に関する選択に正解はありません。ご家族の死が現実味を帯びてきてはじめて人生の最期を自覚し、悩み戸惑うものです。

人には必ず最期のときがきます

看護師ライター

ayaさん

施設職員などプロに頼れるところは頼り、最期のときに後悔しないよう、日ごろから家庭内で意見を共有しましょう

そして、どの家庭でも、本人・家族の双方が納得したうえで残された時間を大切に過ごせるよう願っています。

この記事の執筆者

看護師ライター:ayaさん

5年一貫の看護学校卒。看護師として、大学病院の手術室や一般病院の病棟勤務を経験したのち、特別養護老人ホームに勤務。現在は看護師×副業ライターとして活動のかたわら、フリーランスパラレルワーカーを目指して、キャリアスクールに通いながらスキルアップ中。

丁寧なコミュニケーションと、医療や介護の情報を正しく分かりやすく伝える文章執筆を大切に活動しております。

X:https://twitter.com/z3fb_bm

note:https://note.com/fine_ancoromochi/

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執筆

京薬卒、(株)Medited代表取締役。 医療・取材ライターや医療系介護メディアの編集長業務、キャリアスクールでの講師メンター業などを経て2020年よりオンライン動画講座「医療ライターのはじめかた」メディア「MediJump」の運営を開始。2022年より医療×Webクリエイターの交流コミュニティ「MediWebラボ」をスタート。2023年に法人化し、経済産業省JStarX起業家プログラム等に採択。「医療資格は、ずっと味方」をテーマに活動しています。