今回は5周年を迎えた医療系Webメディア「メディッコ」の編集長でもあり、施設在宅の薬局薬剤師としても働く堀間莉穂(ほりま りほ)さんにお話を伺いました。
現在の働き方への経緯、トリプルワークの経験やメディッコへの思い、さらに今後挑戦したいことなど盛りだくさんの内容を話していただきました!
薬剤師編集者、堀間莉穂さんの自己紹介
ーーこんにちは!お時間ありがとうございます。さっそく自己紹介をお願いします!
大学を卒業して3年間、兵庫県姫路市の調剤薬局で薬剤師として働いていました。
日本の中でも超高齢地域で、80〜90代のおじいちゃんおばあちゃんが1人で歩いて薬局に来るようなところ。毎日患者さんと播州弁で話し、介護施設の薬の調剤や配達もしていました。
その後、株式会社ケアネット(CareNet)という会社に転職しました。
ひと通りの業務ができるようになった頃、「この先もずっと、今やっている範囲の業務しかできないのではないか」という不安と、あまり薬についての勉強ができる環境ではなかったことが転職のきっかけです。
薬剤師が嫌になったわけではなく、このままなんとなく働いていても薬剤師としての幅が広がらないと思ったので、異業種への転職を視野に入れました。ケアネットは一般職ですが、薬剤師としての経験やスキルが求められていたので、薬剤師手当等はありませんが、薬剤師の編集者として4年半働いていました。
薬剤師を目指したきっかけ
ーー薬剤師を目指した理由やきっかけを聞かせてください。
シンプルに言うと親の意向が大きかったですね。母親が助産師なので、医療職という選択肢が身近にありました。
将来を考えた時に、自分は血が苦手で注射を刺されるところさえ見れないので、母親と同じ道は厳しいと思いました。医者になれるほど頭も良くなかったことと、理科系科目が好きだったことから、「なら薬剤師がいいかな」と考え、親からも資格職として薬剤師を勧められたので、薬学部に入学して無事薬剤師になれた形です。
薬局薬剤師から未経験のWebメディアへの転職
ーー薬局薬剤師から、どうして編集者に転職されたのでしょうか。
普通の薬剤師とは違うことをやってみたいと思い、転職サイトを眺めていたところ、メディカルライティングという分野の仕事を見つけました。もともと文章を書くことが好きだったこともあり、調剤薬局と並行してメディカルライティング系の募集をいくつか見て、最初に応募したうちの1つがケアネットでした。
内定をいただき、純粋に一般企業で働いてみたいという好奇心と、「今後何かが起きて、薬剤師が続けられなくなったときに何もできない自分は嫌だ」と感じていたことから、新たなスキル習得が期待できるWebメディア編集者への転職を決めました。
薬剤師などの医療系国家資格はブランクがあっても復帰しやすいのが利点なので、「資格のメリットを最大限生かそう!」と、気軽な気持ちで異業種へ転職しました。
臨床感覚を失わないように始めたアルバイトを経て現在へ
ーーケアネットを辞めて、現在の職場で働くようになった経緯を教えてください。
今は、訪問在宅がメインの調剤薬局で働いています。前職のケアネットでは、薬剤師の資格が必要な業務はありませんでした。転職して3年目を迎える間際、「このままだと今後、臨床薬剤師として働く上ではマイナスになってしまうかも」と考え、臨床感覚を保てるように土曜日の午前中を使って糖尿病クリニックの院内薬局でバイトを始めました。
その後、編集者のスキルを活用してライターの業務委託なども受け始め、薬剤師インタビューの取材記事作成などを経験しました。お仕事で出会った在宅現場で活躍する薬剤師たちから大いに刺激を受け、在宅医療に興味を持ったところ、インタビューをした1人から「うちの薬局で一緒に働いて、在宅についてもっと勉強しませんか?」とお声がけをいただきました。
ただ、すでに本職(編集者)とクリニックのアルバイトを掛け持ちしていたため、転職は難しいと考え、会社と相談してケアネットを時短勤務にして週1日、個人在宅専門の調剤薬局でパート薬剤師をはじめることになりました。それから1年半ぐらい、編集者と薬剤師のトリプルワーク+α(委託ライター)で働いていましたね。
ご縁や周囲からの協力に恵まれ、かなり自由な働き方をしていましたが、年齢的にケアネットのフルタイム勤務に戻るのか、臨床薬剤師に復帰するのか考えなきゃいけないタイミングに差しかかったところで、自分は臨床現場にいたい気持ちが強いんだと改めて認識し、「仕事を変えるなら今しかない」と思い、ケアネットを辞めて、去年の9月から施設在宅メインの薬局で正社員として働いています。
“出会い”が人生のターニングポイント
ーー今までの人生の中でターニングポイントだったなと思う出来事がありましたら教えてください。
多職種連携Webメディアを運営するコミュニティ『メディッコ』に入って、素晴らしい人間性を持つメンバーと出会ったことがとても大きいと思います。私はもともと、薬薬連携(薬剤師同士の連携)への興味をきっかけにメディッコに入りました。現場では、薬剤師同士でもコミュニケーションエラーが発生して、意見が対立してしまうことが度々あります。
薬剤師以外の他職種の人たちでも同じようなことがあるのか、関係性を改善する工夫などはあるのか、もっと知れたら連携の世界観が変わるかもしれないと期待して、メディッコの立ち上げから関わることになりました。
画像引用:メディッコ
メディッコでは、Webメディア立ち上げのほかにも、看護雑誌の記事を執筆をしたり本を出したり、最近では学生教材用のDVDの監修をしたりと、私1人では到底成しえないような貴重な経験がたくさんありました。メンバーは現在約25名ですが、お互いにリスペクトし合っていて、とても良好な関係性が築けています。オンラインがメインのやり取りでも、大きく揉めることもなく5年も続けられているのは、本当に奇跡のようなことだと思っています。
メディッコで編集長になるまで
ーーメディッコにはいつ頃からどのように関わり始めたのでしょうか。
加入したのはケアネットに転職したのと同時期なので、2018年ですね。最初は発起人のほっちさんがメインの編集業務を担っていて、そこから引き継いだ形です。私は薬剤師経験が3年しかない中で臨床を離れたタイミングだったので、最初は他職種の略語すらもわからないような状況でしたが、メンバーが執筆した記事を読む中でたくさん調べて、リリースまでに座談会だけでも30本ほどの編集を行い、ある意味修行のような形になりました(笑)。
▼メディッコ初期編集者、ほっちさんインタビュー記事
臨床工学技士から医療ライター・編集者へ転身、ほっちさん
ケアネットでも編集を学びましたが、駆け出し編集者としてこれだけの実経験をメディッコで積めたのは大きかったですね。仕事にも慣れて編集スキルもだんだん向上していき、幹部を決める段階で「活動のメインはWebメディア運営なので、編集長が必要だ」という話になり、形ばかりですが私が就任することになりました。いま現在『メディッコ』に掲載されている記事は、ほぼすべて私が目を通しています。
Webメディア「メディッコ」運営のしくみ
メディッコは、年会費を集めて運営している有志のコミュニティです。Webメディア運営に関わるタスクを事前に決めた単価に基づいてカウントして、集めた会費と外部案件の報酬からメンバーの活躍に応じて振り分けています。
とはいえ、タスク報酬は外部委託等の相場と比べると少額なので、お互いに協力し合って活動参加へのハードルをなるべく下げ、メディッコのために時間や労力を使うことに対してネガティブな感情が生まれないように工夫しています。
今は発足時と比べるとメンバーの年齢が上がったため、それぞれ仕事や家庭が忙しく、使える時間やリソースが少なくなってきました。それでも週1回の更新は保持したいので、今はとにかく続けることに重きを置いて省エネ運営しています。
ーーみんなで協力して作り上げた土台がしっかりあるから、安心して活動できるんだなと感じますね。
医療現場と一般職との価値観のズレに苦悩
ーー今までの人生の中で辛かったり、失敗したけど乗り越えたという出来事がありましたら教えてください。
しいて言うとすれば、前職のケアネットで働き始めた頃は、医療現場との価値観のズレを感じる場面が多くありました。医療現場で1番優先すべきは患者さんやご家族の気持ち的な部分で、時には命に関わる・関わらないという状況ですが、一般企業では具体的な数値や金額が評価されるので、自分の中の価値観とのすり合わせが難しいと感じました。
あとは、記事の中の誤字1つをなくすためにかなりの時間と労力を割いていて。たしかにミスをなくすのは大事だけれど、誤字で誰かが死ぬわけでもないですし。校正システムを導入するなどでミスを機械的に防ぐ形を取れば、何重もの確認作業で奪われる時間を他のことに活用できるのに……などと感じていました。
正解がわからない中でも学び続ける大切さ
前職では未経験とはいえ中途採用だったので、編集スキルやコミュニケーション能力は、自分でやっていく中で習得していくしかありませんでした。前任者からの引き継ぎがあったのでそこまで大きな苦労はなかったですが、今思えば正解がわからない状況が続いていたのはしんどさもあったかもしれません。先輩や上司とコミュニケーションをとりながら良い部分を参考にしたり、他の人が編集した記事を読んで探っていく感じでした。
著明な医師や教授が執筆した原稿に編集という形で手を入れることに対して、最初の頃はとまどいもあり、適切な距離感やコミュニケーション方法も手探りで、編集者として信頼してもらえるまでは時間がかかりました。
それでも、地道にコミュニケーションを取ることでだんだんと良い関係が作れるようになり、執筆者と協力しながら、自分でも満足のいく記事を企画・編集できるようになりました。仕事自体に慣れてからは、先生方とのやり取りも楽しめるようになったので、わざわざ地方にいる先生が来る学会に出向いたこともあります。
仕事と趣味を両立させる、毎日の過ごしかた
ーー現在の働き方と休日の過ごし方を教えてください。
平日は基本的には9時から18時までの勤務で、車通勤なのでかなり自由度が高いです。
最近は隔週になっていますが、土曜午前のバイトも続けています。施設在宅業務は週に1〜3回往診同行があり、施設入居者の薬についてクリニックの医師と相談しながらやっています。処方箋をもらったら薬局に戻って、薬の準備ができ次第配達するという流れです。
日々、医師や看護師と密にやり取りをしているので、勉強にもなりますし、なにより薬剤師という職能を生かせているという実感にもつながっています。
仕事以外の時間は、趣味と副業に全振りしている感じですね。中学の時から楽器を続けていて、今1番自分の時間を使っているのは音楽活動だと思います。土日は楽器の練習で外に出るので、電車に乗っている時間などにメディッコの編集・入稿作業や副業のライティングを進めています。
堀間莉穂さんが今後挑戦したいこと
ーーこれからやりたいことについてお伺いできればと思います。
第一に、薬剤師としての引き出しをもっと増やしたいです。順序立てて勉強していくことがあまり得意でなく、どちらかというと実戦で乗り越えながら学んでいくタイプなので、臨床現場に居続けることが、自分が薬剤師として成長できる唯一の道だと思っています。
たとえば往診同行をしている中で、栄養管理や褥瘡処置の現場を自分の目で見ることで、それまでは教科書的だった2次元の知識が、実例と結びついて3次元化されていく感じがあります。以前は細かい部分まで気が回っていなかった経管栄養剤によるカロリーや水分量など成分の違いや、褥瘡の段階に応じた外用薬の選び方など、現場で経験しながら、少しずつ実践的な知識を深めています。
また、メディッコでのやり取りや施設在宅で患者さんを見ている中で、新たにやりたいことも見つけました。嚥下機能の評価は薬剤師にとっても重要だと気付いたことから、今後の人生でチャンスがあれば、言語聴覚士の勉強をしてゆくゆくは資格が取れたらと考えています。現場では言語聴覚士が必要な場面でもなかなか出会えないので、自分で勉強した方が早いかもしれない……と、ちょっと思っています。
これから挑戦したい方へメッセージ
ーー最後に、これから挑戦したい医療職の方に向けてメッセージをお願いいたします!
いろいろな薬剤師と出会って思うのは、「すごい薬剤師」といわれる人たちは別に特別なことをしている訳ではないということ。もちろん知識や経験は豊富ですが、実際にやっているのは本当に基本的なことを大事に、そして根拠を持ってやっています。
また、看護師や他職種の方、患者さん、そして同じ薬剤師同士のやり取りにおいて、コミュニケーションがとても丁寧な方が多いです。なので、基本的なことを当たり前にできたら、それは良い薬剤師のスタートラインに立てたも同然なんじゃないかと私は思います。せっかく薬剤師になれた人生を、ぜひ前向きな気持ちで楽しんでほしいと思います。
何か挑戦したいことがあったら全力で頑張ってほしいですが、どちらかというと悩むのは、自分が本当にやりたいことが見つからない人なのではないでしょうか。今後どうしよう……と思っている人へ。今いる環境に居続ける理由が消極的なものだったら、自分の能力をもっと生かせる場がないか、仕事を辞めずともまずはリサーチしてみてください。
価値観とはとても流動的なものなので、薬剤師が求められている仕事について、ネットで調べたり、人の話を聞いたり、記事を読んだりすると、新しい発見につながるかもしれません。もしかしたら、自分とは違う考えを持つ興味深い人や憧れのような人を見つけられることも……?
私自身は少し特殊な経歴を持っていますが、これまでの人生で人との出会いが、次は何をしよう、何がしたいかなと考えた時に鍵になったと感じています。ひとりで考えすぎず、ぜひ周りに目を向けてほしいなと思います。
ーー実体験の詰まった素敵なお話、ありがとうございました!
X(Twitter):https://twitter.com/care_nekko
note:https://note.com/polymeripo/