今回は、明朗快活で前向きな発言、最愛の夫との仲良し生活を綴ったツイートで約10万人のフォロワーを持つエッセイスト、ものすごい愛さんにお話を聞いてきました。
エッセイストとして活躍中、ものすごい愛さん
ーーお忙しい中時間をとっていただきありがとうございます。今日はよろしくお願いいたします。最近発売された著者「今日もふたり、スキップで〜結婚って”なんかいい”」も読ませていただきました。早速ですが、簡単な自己紹介をお願いします。
よろしくお願いします。
私は留年と国試浪人を経験しているので、いつも数え方がわからなくなるのですが……。
大学を卒業したのは26歳の時。国家試験には落ちましたが、大学を卒業してそのままドラッグストアに就職したので社会人歴は6年目です。
半年間働いてお金を貯めて、残りの半年間は休職して勉強し、国家試験に合格しました。なので薬剤師歴としては5年目になります。
私は北海道出身で今も札幌に住んでるのですが、当時付き合っていた彼氏(現在の夫)が住んでいたので関西に就職したんです。
就職先はなかなかのブラック企業でして……ひどいときは朝7時半頃に家を出て夜11時半に帰る、という生活を送っていたので結構しんどかったですね。
結婚後、夫が「仕事を辞めて、何か好きなことをしなよ」と言ってくれたので、2年半ほどで退職しました。職場の人間関係は良好でしたし、仕事内容も自分の性格に合っていたので結構楽しく働いていたんですけど、体力的なことを考えるとこれはちょっと長くは働けないなぁと思っていたところだったので、ありがたかったです。
とはいえ、特にやりたいこともなかったんですが、私のブログやTwitterを見たKADOKAWAの方から「本を出しませんか」という話をいただいて。
それと同時期に今連載中のメディア「AM」さんからも「コラムを書きませんか」という話をいただいたんです。そこから文章を書く仕事をするようになりました。
書籍の準備や連載をしながら、飲食店のホールなど薬剤師とは全然関係ない仕事もしていましたね。北海道に戻ってからもありがたいことに文章を書く仕事をいただけたのでそれと並行しつつ、調剤薬局で働いていました。現在は調剤薬局を退職して、病院に勤めています。
【ものすごい愛さんの著書】
▼1冊目
ものすごい愛のものすごい愛し方、ものすごい愛され方
KADOKAWA
▼2冊目
命に過ぎたる愛なし 女の子のための恋愛相談
内外出版社
▼3冊目
今日もふたり、スキップで ~結婚って“なんかいい”
大和書房
他にもちょっと不思議な仕事をしていまして。
徐々にバランス感覚を失っていく難病を抱えている方のサポート業務をしています。
基本的な日常生活はできる方なので、食事の準備をしたりお風呂入れたりという介護的なものではなく、例えば上を向くと倒れてしまうので庭の木を切ってほしいとか、ゴミを捨てに行くのが難しいから代わりにやってほしいとか、そういった生活の中で不自由していることを代わりにやります。
他にもコンクリートの壁セメントで埋めたり、庭仕事したり、犬の散歩に行ったり、障子の張替をしたり……いわゆる何でも屋さんですね。ご自宅に行くと「今日こういうことをやりたいからお願いしてもいい?」と毎回違う頼まれ事をするので、新鮮で楽しいです。
ーー楽しそうな働き方ですね! 医療資格を持ってる人にサポートしてもらえるというのは、ご本人や周りの方にとって心強いだろうなと思います。
そうかもしれません。例えば「この薬飲んでるんだけどこれも飲んで大丈夫?」と聞かれることもあるので。
知り合いが「誰か暇で元気な人いない?」と探していたところ、たまたま私に白羽の矢が立っただけなので、薬剤師の資格は必ずしも必要だったわけではないんですが、信頼してもらえる一つの理由になってるなと思いますね。
ものすごい愛さんが、独学で「読みやすい文章」を書けるワケ
ーー編集者さんからの依頼があって、連載や本の出版を始められたということですが、著書を読むと「すごく読みやすいなぁ」「読んでいるといつの間にか読み終わっている」ということが多いです。文章を書く勉強などされていたのでしょうか?
昔から漫画やエッセイを読むのは好きでしたが、もともと文章を書く仕事をしようと思ってはいたわけではないので特別勉強をしたことはありません。理系だったので国語は苦手でしたし、読書感想文なんかはすごく下手でした。一応ブログは書いていましたが、あくまでも趣味の範囲だったので……。
だからといって昔から薬剤師になりたかったというわけでもなく、とりあえず資格が欲しくて。やりたいことが本当になかったので「資格を取っておけば人生の保険になるかな」と思っていた程度なんです。
書籍のお話しをいただいたときは「暇だし本を出したことないからやってみるのもいいかな」ととりあえずで引き受けてしまったので、そうなるともうやらざるを得なかったというか……勉強不足だったのでかなりしんどかったですね。だから夫には「もっと本を読みなさい!」とよく怒られてますね。
原稿を書いていて言葉がわからなければ、辞書を引いています。同じ表現ばかりになってしまったときは、ネットで「○○ 類語」と検索することもよくありますし。自分の文章を「どうだ! 上手だろう!」と自信満々に出せないので、いつも担当さんに「これおもしろいですか……大丈夫ですか……変なところあれば直すので教えてください……」としつこく聞いておっかなびっくりやってますね。
ーーそうだったのですね、ありがとうございます。ブログは長年続けられているのでしょうか。
関西に引っ越して友達ができない寂しさで書き始めたので、5年くらいですかね。
書籍のきっかけになったはてなブログも、そのあと始めたnoteもどちらも続かなくて。締め切りに追われないと文章を書こうという気にならないんですよね……。
今は、個人サイトでブログをやっていますが、暇なときに思い出したかのように書く程度なので、ブログ歴が長いわりに書いた数は少ないと思います。だからコンスタントに更新している方はすごいなと尊敬しています。
人生を変えたターニングポイント、「人との出会い」
ーーありがとうございます。そんなものすごい愛さんが人生を考えたきっかけ、ターニングポイントはありましたか?
私は「こうなりたい」という欲があまりないんです。だから、自分のこれまでの人生を見つめ直したり、何かのターニングポイントをきっかけに生き方を変えてみようと奮起した経験がほとんどなくて。
ただ人の縁には恵まれているほうだと思っているので、人生の要所要所で「こういうのあるんだけど、やってみない?」という誘いには、基本的に乗るようにしています。文章を書くことも、サポートの仕事も、以前勤めていた薬局も、今働いている病院も。
それが結果的に色んなことにつながっているなと。いい経験になったことがほとんどですし、たとえ嫌な目にあってもエッセイのネタになったし。今思い返してみれば、そういった誘いはすべてターニングポイントだったのかもしれません。
ーー特にこの人に出会って変わったなと思ったきっかけになった人はいますか?
そうですね……夫と出会えたのは神様からのご褒美だと思ってます。言葉にして伝えることの大切さを学びましたし、夫と出会っていなかったらこんな風に文章を書く仕事はできていなかっただろうな、と。
ちょっと話それるんですけど、私ギャンブルを一切しないんです。懸賞、抽選、くじ引きとかもあまりしないようにしています。当たったら運が減りそうで、その分人間関係に運を使おうという自分のジンクスがあるんです。自分のたまりにたまった運が来たなぁ、ほんとにラッキーだなぁと思いますね。
ーー素敵ですね。そんな方と結婚生活を送れるっていうのは、何よりも素晴らしいことだなぁと思います。
ものすごい愛さんが考える、「人との関わり方」
ーー著書を読むと、ものすごい愛さんの「人を惹きつける力」はすごいなと感じます。自分が生きやすいように「こういう人と関わるようにしてる」ということがあれば教えてください。
学生の時ってスクールカーストや仲良しグループみたいなのに結構支配されていた人が多いと思うんですよね。苦手な人でも離れにくい空気があるというか……それが結構窮屈でした。大人になって「人間関係は自分で選べるんだ!」と気づいてから、好きな人とだけ付き合っています。
仕事をしてると自分の時間も限られていますから、せっかくの休日に嫌な人とは会いたくないじゃないですか。
「無理かも」と思ったらすぐに距離を取ったり、「本当は行きたくないけど付き合いもあるし……」という集まりを断ったりしているうちに、自然と周りには好きな人ばかりになりました。基本的に「好きじゃない人に好かれても嬉しくないし、好きな人に好かれていればそれでいい」と思っているので、その分めちゃくちゃ好きな人や損得勘定なしに私と付き合ってくれている人は大事にしています。
ただ、プライベートはそれでうまくいってるんですけど、やっぱり仕事となるとそれだけじゃ社会で通用しないこともあるんだな、と最近学びました。「クソッタレがよ!」という怒りを心の奥にしまい込んで、表面的に大人の対応をするように努力はしています。上手にできているかはわかりませんが……。
ーー「超いい人」を見つけるのが上手なのですね。
ありがたい話です、人に恵まれていて。
一応自分なりに「自分の気持ちを伝えるときは嘘ついて誤魔化さない」とか「人の話を聞くときは決めつけないようにしよう」とか、攻撃されない限りはフラットに接することを心がけてはいますね。
ーーものすごい愛さん自身が、軸があって関わり方を決めているからこそ、似たような人が集まるのかなと感じます。
でも、「この人苦手だけど、無下にできないなぁ」ってきちんと対応してる人は尊敬します。私は感情が顔に出るというか、「この人無理!」と思っちゃうと関わるエネルギーが湧かないので……。
私はすごく好かれる時もあれば、「私あなたの親を殺しましたっけ?」っていうくらい嫌われる時もあるので、相手からの好き嫌いのベクトルははっきり分かれるタイプだろうなと思います。
辛かったことや失敗したこと
ーーものすごい愛さんが今まで生活した中で、辛かったことや失敗したことはありますか。
めっちゃありますよ!
私は今フリーランスなんですけど、社会の仕組みや税金などについててこれまであまりきちんと勉強してこなかったので、そのツケが今きてますね……。
薬学部って国家試験の合格が最終目標みたいなところがあって、就活で苦労することは少ないと思うんですよね。
メーカーとかの一般企業の場合は別ですが、薬剤師資格を持っているとある程度希望したところに就職できるし、入ってからは社会保険とかの面倒くさい手続きは会社が全部やってくれる。それもあって、今思えば社会や経済の仕組みについて無知だったなと。
だからフリーランスになってからそういった面では苦労してますし、恥をかいたこともありますね。
薬剤師としては、ドラッグストアで働いていたときが一番つらかったかもしれません。体育会系でお酒が好きな人が多い職場だったので、12時間以上立ちっぱなしで働いたあとそのまま夜中3時まで居酒屋で飲んで、タクシーで帰宅して2時間だけ寝て朝イチで出勤。そこからまた丸一日働く……ってサイクルはよくありました。
たまに限界がきて、休憩室に敷いた段ボールの上で仮眠を取るくらい生活はひどかったですね。あの頃は若かったからなんとかやれてましたけど、今なら絶対に無理です。
ーーそうだったのですね、聞くだけでも過酷さが伝わってきます。
体調を崩されなくてよかったです……!
エッセイストをしていて、大変だったこと
ーーエッセイストとして活動する中で、大変だったことはありますか。
私、締め切りのギリギリにならなきゃ書けないんですよね。
締め切りまで2週間とか猶予があっても前日に書き始めちゃって……。結局間に合わなくて、担当さんに「すみません! 明日まで待ってください!」とよく懇願するメールを送っています。いつもご迷惑をおかけして本当に申し訳ないです……。
3冊目の著書『今日もふたり、スキップで』は、もともと全編書き下ろしの予定だったんです。ただ、そうなると絶対ギリギリまで書かないだろうな……と思ったので、連載をしながら書き下ろし用のストックをつくらせて下さいとお願いをして。
でも、結局1年間の連載すらもギリギリで、ストックが1本しかできてなくて。最後のほうは3日間寝ずに原稿を書いたり、担当さんと電話をしながらあまりの疲労に「もう何を書いたらいいかわかりません」って泣いたり。本当に迷惑をかけたので、担当さんには足を向けて寝れないです。
自分でも本当によくないなとは思ってるんですけど、締め切りギリギリの方が原稿って不思議と進みません?集中力が増すというか。
ーー切羽詰まって集中力が増しているのかもしれないですね。
書き始めたらとブワッと書けるというのは、それまで考えて整理することに時間がかかっているのかなとも感じます。
「書くことがない!」と思った時は
私の方から逆に質問してもいいですか?
文章を書くときって、どうやって書いていくのでしょうか。
ーーWebライター的なお仕事の流れですと、読者がどういうキーワードでその記事にたどり着くのかなというのを探して、キーワードを洗い出します。あとは読者層を想定してどういうニーズがあるのかを考えてから、構成作りや文章作成をします。
ーーいきなり文章作成から始めてしまうと、最初に考えていたゴールと全然違うゴールになりがちなので、筋道をたててから記事を作るイメージです。
私は書いてるとちょっと飽きてくるというか、最初のボリュームが多いので、尻すぼみになることが多いんです。とりあえず最初に、書きたいことを箇条書きにするんですよね。
そこから構成作りをするのですが、その作業がすごく嫌いで、「オチ」は決まってるけどそこまでの流れがすごく退屈になっちゃうんです。筋道作ればいいんだなって、すごく勉強になりました。
ーー恐縮です、ありがとうございます。私も自分のnote以外でエッセイを書いたことないので、とても勉強になります。
以前、髭男爵の山田ルイ53世さんと対談させていただいたんです。山田さんも家族にまつわるエッセイを出版されているんですが、「書くことなんてないよね」って話で盛り上がって。
「毎日エッセイのネタになるようなことなんてそうそう起きないよね」「だって普通に生活しているだけなんだから」「むしろしょっちゅう事件が起きたほうがヤバイよ」って仰ってて、「わかる!」とかなり共感しました。
いつも「どうしよう、何も書くことがない」って悩んでる時間が長いんですね。構成をどうしようとかじゃなくて、そもそも何について書いたらいいんだろうって。
だから、いつも打ち合わせで担当さんが「最近1週間であったことを教えてください」と言ってくれるので、とりあえず近況を全部話すんです。そしたら「その時どう思ったんですか?」「どうしてそういう行動をしたんですか?」と聞かれて、それに答える。会話の中で「じゃあそれをそのまま書いてください」と言われたことをエッセイにする、というやり方をしてます。
自分では大したことないと思ってることでも、「なんでそれ書かないんですか」と言われたりするので、誰かに話すことで気づきがあるんだなと思いましたね。
ーー読者からはわからない苦労もあるのですね。
私もですが、ものすごい愛さんのようにエッセイ本を出せたらと考える方は多いと思います。そんな方の参考になる内容、ありがとうございます。
インタビュー後編は、以下のリンクから!
後編では、「エッセイストと薬剤師の両立」「今後やりたい活動」「後輩の医療者へのメッセージ」など、気になる内容を深堀りしています。
松岡磨衣子
後半の記事も、お楽しみください!
(インタビュアー/記事編集:松岡マイ、ライター:中川あや)
薬剤師ライター:中川 あやさん
大阪薬科大学卒。地元の調剤薬局で薬剤師として従事する傍ら、ライターにも挑戦。
”いつでもどこでも働ける”を目指して自分の働き方を模索中。「読んだ後、その先の行動へつながる記事」を目指して執筆しています。
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