「チーム医療に貢献するやりがいはある。でも、このまま“裏方”でいいのだろうか——?」
病院薬剤師として5年間、病棟業務などで活躍してきた小芝ユウさん。周囲に感謝されつつも、プロとしてのプロセスが見えにくい環境にモヤモヤを抱えていました。
転機は、友人の前でこぼれた「他の仕事もしたい」という本音。その後、第4回「Medi+医療系取材ライターのはじめかた講座」(2025年4月開催)を受講し、派遣薬剤師×医療系取材ライターという新しい働きかたに挑戦します。
10年後の自分が後悔しないために……と正社員としての待遇を手放した小芝さん。時間と心、収入にもゆとりが生まれた現在の暮らしと、葛藤を自信に変えたキャリアチェンジの道のりを伺いました。
病院薬剤師から派遣薬剤師へ、小芝ユウさん

ーーまずは簡単に、これまでのキャリアを含めた自己紹介をお願いします。
薬剤師の小芝ユウです。
現在6年目で、2026年3月に新卒から働いていた病院を退職。派遣薬剤師に転職し、調剤薬局に勤務しながら、これからの新しいキャリアを模索しているところです。
病院薬剤師のときは、整形外科や神経内科、消化器内科など幅広い診療科を経験させてもらいました。NST(栄養サポートチーム)の参加や、リクルート業務も担当していました。
縁の下の力持ちのまま?病院薬剤師としての葛藤
ーー病院薬剤師としてキャリアをスタートされたとのことですが、そもそもなぜ薬剤師を目指されたのですか?
実を言うとはじめから「医療従事者になって患者さんを救いたい」や「薬剤師になりたい」といった気持ちがあったわけではないんです。
大学受験のときの、いわゆる「成り行き」に近かったと思います。理系学部への受験の中で、高いレベルを目指した結果が薬学部進学でした。
ーー成り行きでのスタートだったとはいえ、無事に国家試験に合格されて、病院に就職されたのですね。実際の病院薬剤師の仕事はいかがでしたか?
病院では主に病棟業務を担当していました。医師や看護師、その他の医療従事者と連携しながら、チーム医療の一員として薬物療法の支援をしたり、患者さんのベッドサイドで服薬指導をおこなったりする仕事です。
医師に具体的な代替薬を処方提案できたり、患者さんから直接「ありがとう」と言っていただける機会もあったり、医療の最前線で貢献できているという確かなやりがいを感じていました。
ーーやりがいを感じていたとのことですが、なぜ働きかたを変えようとかんがえたのでしょうか?
病院薬剤師として働き続けるうちに、「感謝される」ということに対して、自分の中で少し違和感を感じるようになったんです。
他の医療従事者の方や患者さんに貢献できているのは嬉しかったのですが、私たち薬剤師が裏で「どれほど考えたり、勉強したり、動いているか」というプロセスまではなかなか見えにくいですよね。
「本当はこれだけのことをやっている」というプロフェッショナルとしての過程の部分が、どうしても「ざっくりとした『ありがとう』」の中に隠れてしまう気がして、どこかモヤモヤしていたんです。
一般的に薬剤師は「縁の下の力持ち」と言われ、それが美徳とされることも多いです。しかし私の本音は、裏方として支えるよりも、もっと自分自身が表舞台のフィールドに立って活動してみたいという気持ちが芽生えたんです。
それが病院薬剤師の業務に慣れて、一通りのことができるようになってきた3年目の春ごろでした。
「他の仕事をしてみたい」ぱっと出た本音

ーーそのモヤモヤとした気持ちが、具体的な行動へと変わったきっかけは何だったのですか?
やりがいに悩むようになった病院薬剤師3年目の頃に大手転職エージェントに登録し、転職活動をしました。しかし魅力的に感じるのは今の職場に似た病院ばかりで、アドバイザーからも「今の転職は勧めない」と言われ、行き詰まってしまいました。
そんな時、部長から他院への半年間の出向を打診され、環境を変える好機だと即決。新鮮な気持ちで臨んだ出向先では、職場にもすぐに馴染めました。
しかし、病棟業務の負担が想像以上に大きく、本格的に異動するまでの決意には至りませんでした。結局、出向期間が終わると元の病院へ戻ることに。当時は「またここで働き続ければきっとまたやりがいを見出せるはずだ」と、自分に言い聞かせるようにしてモチベーションを保っていました。
その後もモヤモヤを抱えていたある日、友人と会って何気ない話をしていた時に「私、本当は他の仕事もしてみたいんだよね」という言葉がぱっと飛び出しました。意識的ではなく、心の奥底の感情が勝手に言葉になった感覚でした。その瞬間、今の仕事に満足しているつもりだったけれど、本当は新しい世界に挑戦したかったのだと気づいたんです。
ーー自分の本音に気づいてからは、どのように行動されたのでしょうか?
まずは今の仕事を続けながらできることを探そうと考え、見つけたのがPC1台で場所を選ばずに働ける「在宅ワーク」でした。当時在宅ワークといえば、Webライターしか知らなかったので、インターネットで調べていたところ、医療者向けのWebライティングスクール「Medi+(メディタス)」に辿りつきました。
「Medi+」で取材スキルを習得
ーー実際に「Medi+」を受講してみていかがでしたか?
講座受講を通して、インタビュイーの言葉を丁寧にすくい上げ、読者にわかりやすく届ける執筆の楽しさを知りました。同時に、転職やキャリアチェンジを経験した方の取材記事を書いてみたいという、新しい目標も見つかりました。
実は受講を終えたあと、すぐにでも活動をはじめたい気持ちがありましたが、当時は整形外科で病棟専任薬剤師をしており、本業での役職や責任も上がってきているタイミングでした。本業が忙しいなかで、しっかりと責任を持って副業にも力を注ぐというのは、想像以上にハードルが高くて……。医療系取材ライターとしての活動は一旦保留にすることにしました。
MediWebラボで「本当にやりたいこと」の道が開く
ーー活動を保留にされていた時期に、職場環境にも変化があったそうですね。
ちょうどその頃、職場の薬剤部の中で大きな方針転換や体制変更の動きがありました。私たち現場の職員と、薬剤部の幹部が目指す方向性の間に、埋めようのない大きな溝ができてしまったんです。さらに、この改革の動きに対してどこか無責任に傍観している幹部の姿も見えてしまい、組織としての進み方に大きな疑問と強い失望を感じてしまいました。
「このままこの組織にいても、自分自身の成長はないかもしれない」そう思ったとき、職場に対する違和感はこれまでになく深いものになり、一度は保留にしていた転職への決意を改めて固めることになりました。
ーーそれは大変な状況でしたね。その後、すぐに派遣薬剤師へ転職したのでしょうか?
転職の決断をする少し前に、Medi+卒業生向けコミュニティ「MediWebラボ」の企画で、コミュニティマネージャーのあきさんにインタビューをさせていただく機会があったんです。
あきさんは以前に病院薬剤師として働かれており、そこから派遣薬剤師へ転身された経緯をお持ちでした。取材を通して、あきさんの働きかたの変化や体験談を伺ううちに、もっと詳しくお話を伺いたくて、個人的にメッセージを送り、1on1*をお願いすることにしたんです。
私、実はとても臆病な性格で、新しいことに踏み出すのに躊躇してしまうタイプなんです。もし、あきさんが「やっぱり病院の方が良かった」と感じている部分があるなら、きっと私も同じように後悔してしまうはず。そんな風に、あきさんの経験を自分に重ね合わせながら、「派遣薬剤師」という働きかたが自分にできるのか見極めたかったんだと思います。
実際の1on1では、病院薬剤師から派遣薬剤師に働きかたを変えて困ったことはなかったか、病院薬剤師に戻りたいと思ったことがあったかというようなお話をしました。
あきさんの対話を通じて、自分の中のキャリアに対する価値観も整理されたんです。今の私が一番やりたいのは、薬剤師としてのキャリア形成ではなく、新しい働きかたへのシフトチェンジだと。派遣薬剤師というステップを踏むことで、時間と心にゆとりを持ちながら、医療系取材ライターへ挑戦しようと、ようやくそんな覚悟が決まりました。
不安を胸に。派遣薬剤師として新たな生活

ーー派遣薬剤師への転身を決意されたとのことですが、スムーズに転職活動は進みましたか?
決意してからは、自分でも驚くほど早かったですね。2025年の10月にあきさんと1on1をして、11月には派遣会社に登録。そして12月末には、上司に退職の意向を伝えました。
ただ、退職を迎えるまでの3ヶ月間は少し不安でした。というのも、派遣薬剤師には正式に退職してからでないと、次の派遣先を紹介してもらえないという特有のシステムがあるんです。これまでに退職していった方々は、退職前にすでに転職先が決まっていたことが多かったので、そのギャップに少し戸惑いがありました。
ーーその不安な気持ちがあっても、転職の意思は変わらなかったんですね?
不安になりながらも「10年後の自分は、このまま病院薬剤師を続けて後悔しないだろうか?」と問いかけました。すると、不安から逃げずに挑戦しておくべきだったと後悔している自分を容易に想像できてしまったんです。それに、もし本当にダメだったら、また病院薬剤師に戻ればいいと、最後は良い意味で開き直ることができ、派遣薬剤師への転職へ踏み切れました。
ーー実際に派遣薬剤師になられてみて、現在の生活はいかがですか?
現在の生活は、時間的や精神的にも、ゆとりが生まれました。
以前の病院勤務では当直や残業にくわえ、実質週1.5日休みというハードな働きかたでした。有休を取る際も周囲に気を遣う必要があり、なかなか融通が利かなかったんです。
それが今は週4〜5日の勤務で、月に10日ほどしっかりお休みが取れています。
最近休みの日は、医療系取材ライターとしての記事執筆に時間を使っています。また、先日は3連休をいただいて名古屋へ旅行するなど、これまで我慢していたプライベートの時間も少しずつ満喫できるようになりました。
収入面は、以前の職場の残業代やボーナスをすべて含めたと同等か若干多めになる予定です。働きかたを変えて、本当に良かったと感じています。
【派遣薬剤師小芝さんの1日のスケジュール】
| 5:30~6:00 | 起床 |
| 執筆活動 | |
| 9:30〜18:00 | 調剤薬局勤務(残業なし) |
| 19:00 | 帰宅 |
| 19:30~ | 夕食やお風呂、イベントがあるときにはMediWebラボ参加など |
| 22:30 | 就寝 |
「取材は自己探求」得たエネルギーをみんなに

ーー今後の展望について教えてください。
直近ではスキルアップとして、7月から「Medi+医療ライターのはじめかた講座」の受講を決めました。医療系取材ライターとして活動するなかで、自分のプロフィールを見て「できることの幅」を広げたいと感じたんです。次はSEOライティングのスキルも身につけ、病院薬剤師の経験なども活かした記事を執筆できるようになりたいですね。
もちろん、医療系取材ライターの仕事も、楽しさを実感しているので継続して活動を続けていきたいです。私が「取材」に惹かれる根本には“自分探し”のような側面があると最近気づきました。
人が何に楽しさを見出し、どんな困難を乗り越えてきたのかを聞くことで、自分自身もエネルギーをもらっているんです。取材を通して、さまざまなロールモデルの方に出会いながら、自分らしい生き方のヒントも見つけていけたらいいなと思っています。
ーー最後に、過去の小芝さんのように転職に悩んでいる方へ、メッセージをお願いします。
私は3年目と5年目の2回、転職を考えました。結果的に5年目で転職したのですが、あのとき3年目で辞めずに良かったと思っています。
3年目の転職活動では良い転職先が見つかりませんでしたが、その後昇格試験を受けたり、OSCEの試験監督をしたり、200人規模の勉強会で講師を務めたりなど、思いがけない大きな経験を積めました。社会人として「これだけ頑張れたんだから、外の世界へ出てもきっと大丈夫」と大きな自信につながりました。
もし今、転職に迷っているなら、今の職場でやり残したことはないか、どちらの道を選べば10年後になりたい自分になれるかを一度じっくり考えてみてください。
転職を先延ばしにしたり、今踏みとどまったりしたとしても、その選択は決して無駄ではありません。日々の何気ない業務の積み重ねが、将来の自分を支える「糧」になります。
どちらの道が進むべき未来なのか、自分の心に問いかけながら、未来の自分が一番後悔しない選択をしてくださいね。
【小芝さんの転職成功ポイント】
・コミュニティ「MediWebラボ」や1on1などを活用して、自分の本音と向き合い続けたこと
・「正社員」という枠組みに縛られず、本当の希望のために「派遣薬剤師」という働きかたを選択したこと
・「10年後に後悔しないか」という明確な判断基準を持ち、リスクをチャンスに変えたこと

