今回は、新卒薬剤師1年目。週4日薬局薬剤師、週1日新規事業開発をなさっているあゆみさんにお話を伺いました。
薬学生の頃からさまざまなイベントを主催し、SNSでも注目を浴びるあゆみさん。現在の働き方、悩みや挫折、今後の展望などたくさんの内容をお話ししてくれました。
薬剤師あゆみさんの自己紹介
ーー本日はお時間ありがとうございます。まずは、簡単な自己紹介をお願いします。
現在薬剤師1年目、あゆみと申します。
関西にある大学の薬学部出身で、2021年の3月から関東在住です。
学生の頃は自分自身の5年先10年先の夢や希望を見据えて、同学年の別学部の方や社会人と話す「近未来カンファレンス」というイベントを主催していました。
また、私が就職活動する際、新型コロナウィルスの感染拡大が始まったので、就活に困っている同級生に何か手助けできないかと思い、「全国薬学オンライン合同説明会」を主催しました。
現在は、週4日薬局薬剤師として勤務し、週1日で社内の新規事業開発をしています。薬剤師向けの研修企画運営や、介護に携わる方々向けのメディア運営、社内広報などを行う”なんでも屋さん”です。
ーーあゆみさんがイベント運営に携わるようになったきっかけは、どんなことだったのですか?
大学3年生の2月に参加した「人生設計セミナー」というイベントが大きなきっかけでした。
もともと私は大学1年生の頃から、35歳までの人生プランを綿密に考えていたんです。24歳で卒業して、26歳で結婚して、32歳ではこう過ごして……というようなかたちで。
当時興味を持っていた漢方薬・生薬認定薬剤師の取得とプライベートを両立したかったので、そのためにはどのような人生プランを立てないといけないのかなと考えていました。しかし、考えれば考えるほど「私の人生プラン、ほんまに目標年齢までに実現できるん!?」と思ったんですよね。そして、その時に人生プランを考えることが嫌になってしまったんです。
大学3年生になって、何も考えずにふらっと生きてみようと過ごしていた時に、先ほどの「人生設計セミナー」に出会いました。
今までとは違う大きな視点がテーマで、端的にまとめると人生やお金に関するイベントでした。そのイベントに影響を受けて、参加した1カ月後には「自分のイベントを運営する」と言っていましたね。
学生の頃は「薬剤師をしたくない」と考えたことも
ーーあゆみさんの働き方(新卒で薬局薬剤師をしながら新規事業開発も行う)は珍しいと思うのですが、現在の働き方になったきっかけはどんなことでしょうか。
私自身の性格や考えを社長に話したことがきっかけでした。
現在は週4日薬局薬剤師として働いて、週1日新規事業開発をしているのですが、昔からこのバランスで働きたいと思っていたわけではありません。
むしろ、学生の頃は薬剤師をしたくないと思っていました。
私は早めにものを考えるタイプで、大学4年生の時から「就職をどうしようか、どこで働こうか。そもそも就職する必要はあるのか」と、すごく考えていたんですよね。
薬局・病院実習を通して自分の気持ちを確かめたいと思い実習に挑んだのですが、「やっぱり薬剤師は向いていないかもしれない」というのが自分の中の結論でした。
その結論もあり、5年生の時は一般就職をメインに、IT系や人材、広告系の企業などを受けたのですが、就活を通して「私はやっぱり薬学に関わりたいな」と思っていることに気がつきました。薬学以外の業界に踏み出すことで、「ワクワクする自分はいない」とはじめて気がつけたことは、私にとってとても大きかったです。そこからさらにキャリアについて考え、大学6年生の夏にやっと「薬剤師になろう」と覚悟を決めました。
現在勤めている会社の社長さんとは、大学4年生の冬ごろからのお付き合いです。「薬剤師をやろう」と決めたとき、社長さんに「自分は好奇心旺盛な性格なので、いろいろなものに手を出している状態を作っておかないとしんどくなる」と素直にお伝えしていました。私の性格からすると薬剤師だけに力を入れることは心と体が潰れてしまうな、となんとなくわかっていたんですよね。
そのあと、社長さんが「じゃあこんな働き方どう」と提案してくださって、今の環境が手に入りました。もともと描いていた別分野の業務と薬剤師という職業が、組み合わされた結果です。
ターニングポイントは、悩んでいるからこその”今”
ーーあゆみさんにとって、人生を考えたきっかけやターニングポイントはどんなことだったのでしょうか。
ターニングポイントは何回かありましたが、「今」もそのひとつかもしれません。
1つ目のターニングポイントは、自分がイベントをするようになったこと。
2つ目のターニングポイントは、大学6回生の夏に「薬剤師をするんだ」と腹をくくったこと。
そして3つ目のターニングポイントが、きっと今なのかなと思っています。
就職して10カ月目ですが、自分で「薬剤師と新規事業開発という、2つのことをやりたい」と言ったのに、実際に実行することはとても難しいと気がついたんですよね。というのも、働いてみて、薬剤師の仕事って本当に奥が深いと実感したんです。昨年(薬剤師1年目)の10月〜12月は、社長からは”精神と時の部屋”にいたねと言われたほどでした。
外来の薬局薬剤師業務に加えて、昨年の10月に緩和ケアの在宅業務がスタートしました。
外来業務もしつつ、患者さんのお家に出向く場面が少しずつ増えていく中で、薬剤師として患者さんに服薬指導していくことに自信を失くしていきました。「今まで自信あったんかい!」という感じですが、私にとって自信をなくすというのはとても衝撃的なイベントでした。
「自分は何をしているんだろう。こんな薄い知識で患者さんの目の前に立っていいのかな」と思ったのが、ちょうど去年の秋冬です。自信を失くし、どのように自分のキャリアを組んでいくかとても悩んでいました。
私は比較的楽天家で、「なんとかなるやろ」と言うことが多いです。忙しくて周りが心配してくれても、1人でぱぱっと走っていくタイプなんです。でもあの時は、なんとかなるって言えなかったですね。そして、できない理由を自分以外のせいにしていました。
自分のスキルが足りなくて、できなかったこともたくさんあったと思うのですが、自分のせいにする余裕もなくて、自分以外のものに理由を見つけていました。ある意味心を守る1つの方法かもしれないですけど、余裕がなかったのだろうなと。今は落ち着いて考えられますが、当時は自分以外の何かのせいにしたくなるほど、辛かったのかなと思います。
でも、薬剤師として働いて自信をなくしたからこそ、今は臨床の勉強の楽しさがわかって、ガツガツ勉強できています!
仕事もプライベートも、やりたいことがたくさん。
まさに今、どういう順番で組み立てていこうかなと悩んでいるので、今がターニングポイントだと思っています。悩んでいると言い切れるのは、1つのターニングポイントになったと振り返られているからかもしれません。
去年の年末に、現在インタビューしてくれている薬剤師ライターのあやさんと1年間の振り返り大会をしたんですよ。その時に「今こういう状況でだからしんどかったのか」と振り返ったからこそ、今が悩んでいるターニングポイントですと言えるのかもしれないですね。
ーーあゆみさんは、辛かったタイミングでもきっちり自分と向き合うことが多いのでは思います。起こった出来事を振り返り消化して、つながっていくのですね。
人生最初の挫折は、大学受験だった
ーー今までの経験で、辛かったことや失敗したことがあれば教えてください。
人生で最初の挫折は、大学受験だったと思います。
薬学部で国公立を受験される方は前期試験、中期試験、後期試験と3つのチャンスがありますよね。私は家庭の事情や実力不足などいろいろな要因で、行きたい学校に行けませんでした。結局私立の単科大学に進学しましたが、その時は「自分はここにいるはずじゃない。総合大学に行って、いろいろな人と話したかったのに」と思っていましたし、仮面浪人しようかなと悩んでいました。
その頃、親から「自分の心と向き合うセミナー」みたいなイベントに誘われ、半ば強制的に連れていってもらったんです。イベントを通して自身の感情に真正面から向き合うことができ、いろいろな感情が溢れ号泣しました。その一部始終を見た年上の女性から「きっと、その出来事は挫折だよ」と言われ、「あ、これが挫折なんだ」と思いました。その当時はとても辛かったし、苦しかった。でも、挫折に向き合ったことで、そこからの学校生活がすごく楽しくなりました。挫折を受け止めることで、一気に世界が明るくなった気がします。
ーーそうだったのですね。総合大学に行きたいと思っていた中で、なぜ薬学部のみの単科大学大学に行こうと決めたのでしょうか。
単科大学は、他の私学の総合大学よりも学費が安かったんです。総合大学に行きたかったけれど、親の希望などで選択肢に無かったというのが答えですね。
総合大学に行きたかったのは、いろいろな価値観に触れたいと思っていたからです。単科大学に通うことになった私は、それを実現するためにできることはないかと考えて、1年生から3年生までは部活動とバイトを頑張っていました。バイトの種類は10以上。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのクルーや、コンビニの弁当工場でひたすら卵焼きを乗せる裏方のバイトなどたくさんの経験をしたので、いろいろな人と関わっていくという希望は達成しました。今の自分は”総合大学に行けなかった”というネガティブな感情は持っていないですね。
ーー薬学部は、どうしても将来の職種は限られてくるのかなと思います。自分の視野や価値観を広げるための行動をとり、感情を消化できたという経験も、1つの成功体験となっているかもしれないですね。
週4薬剤師、週1新規事業開発という働き方
ーー週4日は薬局薬剤師、週1日では新規事業の開発という働き方をされていますが、「新規事業の開発」とはどんな業務内容なのでしょうか。
私自身が10カ月間やってきたことでいうと、「入社前に社長がまいてくださった種から出た芽を、今私が育てている」という形になります。
基本的に、出勤の時間はその日によってさまざまです。在宅から始まることもありますし、朝から社長のいる場所へ行って打ち合わせからスタートすることもあります。夜に仕事があるときは昼から出勤して、夜10時くらいまで働くこともあります。
内容は打ち合わせと、やるべきタスクをこなしていくことがほとんどです。
今日も外勤日だったのですが、午前中は諸事情あり薬局に出勤し、午後14時ごろに社長と合流。今後薬局に導入予定のシステムの打ち合わせに同席しました。その打ち合わせは、システム開発会社にたまたま高校の同級生が働いていたので、連絡を取り設定したものです。
15時からは、薬剤師向けの研修の定例ミーティングを行い、進捗報告や今後の方針などを話し合いました。そのあと移動し、2022年卒の方の面接に面接官側として同席しました。それからは、現在の私の担当業務について30分程社長と話していました。
私が担当している社内事業は、社内広報と社内研修会ですが、2つとも作った理由があります。
現在、私は新規事業開発リーダーを任されているのですが、新規事業開発をしていくとなると社内にどんな人がいるのかを把握すべきだと考えています。社内の人それぞれの強みがわからない限り、効果的な業務の掛け算が出来ないからです。「人柄を知りたい、でもコロナ禍で飲みにも行けない、オンラインじゃわからない……」そこで社内広報としてインタビューをするという理由で会いに行き、7月からコツコツと誰かをインタビューして記事作成を続けています。
ーーいろいろな人に関わる機会を、自分から作り出しているんですね。
そうですね。会う理由がないんじゃなくて、会う理由を作り出すというのは、学生時代から変わっていないです。
今後やりたいことは、”性教育”と”女性のヘルスケア”
ーーあゆみさんが、今後挑戦したいことを教えてください。
薬剤師になった時点から2年以内に、性教育や女性のヘルスケアについて薬局で講座を開講したいと思っています。今勤めている会社では薬局が4店舗あるので、月1で講演して回ることを続けられるスキルを身に付けたいです。
そのために、去年は女性のヘルスケアに関する講座を受けてサポーターの認定証を取得しました。また、実際にこの分野で活躍されている薬剤師の方がいらっしゃるので、「弟子入りさせてください!」と7月ごろにお願いし、その方の薬局で開催されている講座のアンケート作成のお手伝いを行っています。今後はその方と月1でミーティングを行い、今後実現したい内容を詰めていく予定です。
ーー女性のヘルスケアに関心を持ったきっかけや、活動をはじめた経緯はどんなことだったのでしょうか?
興味を持ったきっかけは、自分自身が女性ならではの悩みを持った経験があったからです。大学生時代に、「緊急避妊薬をどうやって手に入れたらいいんだろう、もしかしたら妊娠しているかもしれない」と悩んだことがありました。
その時は誰に相談したらいいかわからない、相談できるような内容じゃない。口にするのも気が重いし、どうしたらいいかわからない。でも体に何か起こっているかもしれないという、どうしようもない不安に襲われていました。
しかし、幸いにも大学の倫理の授業で「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」という言葉を知っていました。もしかしたら赤ちゃんポストを持っている場所だと相談できるかもしれないと検索し、実際に相談できたという経験があります。
結局自分の体は何事もなく事なきを得たのですが、「なぜ相談自体にタブーを感じるのだろう」と疑問に思ったんです。それが1番大きなきっかけでした。こんな状況は違うだろう、環境や空気感を打破したいと思いました。この経験が、自分が女性のヘルスケアについて話したり、困っている人を助けてあげたりしたいなと思ったきっかけです。
活動については、自分から発信することはとてもためらいがありました。心の中でずっと秘めていたのですが、いろいろなSNSで「女性のヘルスケアや命とどう向き合っていくのか」を発信している同世代の方がいると知った時に、自分も頑張っていこうと波に乗りました。
他はこれといって定まっていないのですが、”声にならない声を届けていきたい”という言葉を大事にしたいと思っています。
私は誰かに対して「こう思っています」と言葉で伝えることが比較的得意ですが、はっきり伝えることが苦手な方もいらっしゃいますよね。本当はこう思っている、言いたいけど言えない、伝わらないという方々の声を、変わりに届けられる人になりたいなと思っています。
ある意味薬剤師もそういった仕事だと思います。実はお医者さんに言えなくてとか、看護師さんに言えなくてという言葉を拾って他の職種の方に伝えることもあると思うんです。
これは今私が興味を持っている医療政策の分野でも同じことが言えて、「本当はこの制度使いたいんだけど自分は該当しない。でも、こんな制度だったらいいのに」という声を代わりにお伝えする立場になるだとか、医療政策に限らずお仕事の方でも声にならない声を届けるだとか。代わりに生み出す、形にするというのは今後していきたいことの1つです。
「自分が自分が」という気持ちは強いのですが、学生時代のイベントを通して「それだけだと楽しくないな」と知りました。そこから、誰かの声を届けることが結局自分の楽しみにつながっているなと気がついたんです。
ーーたくさんの価値観に触れ合ってきたあゆみさんだからこそ、考えつく内容なのかもしれないですね。
やりたいことを叶えるための、メッセージ
ーー最後に、後進の薬剤師や医療従事者に伝えたいメッセージがあればぜひお願いします。
私自身「何がしたくて今の行動をしているの?」と問いかけられたら、「うーん……」と悩み、答えを出せないと思います。
でも、今は何のためにしているかわからないけれど、後になってつながることって必ずあります。私が大事にしている言葉の1つに”connecting dots”という言葉があるのですが、点と点は必ずつながると思っています。
興味のないことを無理にする必要は無いですが、今自分の目の前に現れてくることって必ず意味があると思います。目の前に現れたことに対して「これはきっと未来からのお手紙だ」と思って取り組むと、視点が変わるのかなと今の自分自身にも思いますし、記事を見ている皆さんにも伝えたいことですね。
あとは、”やりたいこと、知りたいことは声に出して言うこと”は大事だと思います。引き寄せの法則はあると思っていて、「これをしたいです、あの人に会いたいです」と言うと周りの方が連れて来てくださいます。必ず連れてきて下さるかはわかりませんが、言わないと誰が何に興味あるかなんてわからないですよね。
欲しいものや知りたいこと、興味があること、やりたいことは、声に出すとたくさんチャンスが寄ってくる。そのチャンスにはのっかる。ダメでも次はこうしようとつなげる、他の人にも伝える。そういった形で、人とのご縁もつながっていくのかなと思います。多くの方に届いたらいいなと思います。
ーーありがとうございました。
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(記事編集:松岡マイ、インタビュアー/ライター:中川あや)
大阪薬科大学卒。地元の調剤薬局薬剤師1年目。”いつでもどこでも働ける”を目指して自分の働き方を絶賛模索中。ライター、Instagram運用に挑戦中。「読んだ後、その先の行動へつながる記事」を目指して執筆しています。
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