今回は、看護師を経て、アフリカのケニア「モヨ・チルドレン・センター」でのNGO活動と、アパレルブランド「RAHA KENYA」で活躍しているなみほさんにお話を伺いました。
未経験からマーケターや広報業務を行い、NGO活動も精力的に行うなみほさん。ケニア渡航へのきっかけや挫折、現在の働き方、今後の展望などをまとめました。
今回のインタビューは、動画としてもまとめています。気になる方は、YouTube動画もぜひご覧ください♪
なみほさんの自己紹介
ーー本日は、お時間ありがとうございます。さっそくですが、なみほさんの自己紹介をお願いします。
はい、佐藤なみほと申します。今年で28歳になります。
3年ほど看護師をしていましたが、現在はアフリカのケニアで、「モヨ・チルドレン・センター」でのNGO活動と、ケニアを拠点にしているファッションブランド「RAHA KENYA」にてマーケティングと広報の担当をしています。RAHA KENYAはインターンからはじまったのですが、とても楽しくてのめり込みました。その後社員になり、1年半くらい勤めています。
看護師を目指したきっかけ
ーーありがとうございます。なみほさんが、看護師やNGOに興味をもったきっかけはどんなことだったのでしょうか。
看護師に興味をもったきっかけは、祖父母の存在です。
両親が共働きだったので、祖父母の家に遊びに行くことが多く、おばあちゃんおじいちゃん子でした。
小学校高学年ごろに祖父母の体調が悪くなり、日常的にヘルパーさんが必要になったんです。ヘルパーさんの仕事を近くで見ているうちに「介護士さんの仕事はすごいな、良いな」と思うようになりました。
高3の途中までは介護士になるための勉強をして、近所の老人ホームでも週1のボランティアをしていました。しかし、「介護士を目指しています」と言うと、介護士さんからは「今進路を選べるなら、看護師になった方がいいよ」と言われることが多かったです。「介護士も素敵な仕事だけど、もし若い時に進路を選べるなら、看護師になって医療知識を学びたい。できることを増やしたい」という話を聞き、母も看護師で親近感もあったため「看護師になろう」と決意しました。
NGO活動のきっかけは、東日本大震災のボランティア
ーー現在「モヨ・チルドレン・センター」にて、ケニアでのNGO活動に関わられていますが、看護師から転身したきっかけはどんなことだったのでしょうか。
もともと私は、海外に全然興味はありませんでした。
海外に興味をもったきっかけは、東日本大震災でのボランティア活動です。
私は、高2の3月に東日本大震災を経験しました。大きな揺れで校舎のガラスが割れたり、電車が止まって家に帰れず夜の学校で過ごしたりしていました。次の日家に帰って新聞を見たら、0歳から70歳以上までたくさんの被災された方々の名前が新聞に並んでいて、私ははっとしたんです。
普通に生きられることって当たり前じゃないんだなと気がつきました。この体験に衝撃を受けて、17歳ながら「きちんと生きなきゃ」と思ったんですよね。
ボランティアでの出会いをきっかけに、カンボジアへ
看護大学に進学した時も、東日本大震災で感じた思いが忘れられませんでした。大学生の夏休みで宮城県の南三陸町に行き、被災地のボランティアに参加しました。その東日本大震災ボランティアで出会ったお姉さんが、海外に行くことが好きなバックパッカーで、カンボジアの素敵な写真をたくさん見せてくれたんです。その出来事がきっかけで、大学2年生の夏休みに初めてカンボジアのスタディツアーに参加しました。
カンボジアに行くと、物乞いの子ども達とか、今まで見たことのない景色が広がっていて。当時は「途上国の貧しい子どもたちのために働くぞ」とまでは思いませんでしたが、日本に帰っても忘れられない光景となりました。
衝撃を受けた「レンタルチャイルドビジネス」とは
日本に帰国したあと、物乞いや貧困についての書籍を調べて、石川こうたさんの「レンタルチャイルド」という本に出会いました。
その本で紹介されていた、「レンタルチャイルドビジネス」に胸を打たれたんです。「レンタルチャイルドビジネス」とは、マフィアが赤子を誘拐したあと、その赤子をお金がない20〜30代の女性やお年寄りにレンタルし、「オムツ代をください」と物乞いを演じて、慈悲をもらっているという内容でした。
赤子は大きくなると慈悲を得られないので、女の子の場合は売春婦、男の子の場合は腕を切ったり目を潰したりして障害者に仕立てられ、またお金を稼がせるという。私たちが知らない裏には、そういうビジネスがあるんだよと書かれていました。
「レンタルチャイルドビジネス」について知り、私がカンボジアで見た景色は表面でしかなかったんだなと感じました。自分の見ている世界だけじゃなくて、もっと世界を知りたいと思いましたし、何の罪もない無垢な子供が、環境によって可能性が狭まる世界にとてもやるせなくなったんです。
それ以降は、途上国の物乞いや売春婦、ストリートチルドレンや少年兵士など、幼い子どもたちの支援に特化した活動を探して講演会に行きました。時間があればカンボジアやネパールに行き、現地でボランティアやお手伝いも経験して。しかし、まずは臨床の経験を積みたいと思い、日本で3年間看護師をしていました。
看護師として働く中でも、やっぱりストリートチルドレンのサポートをするという夢は、諦めたくないなと思いました。3年で看護師を辞め、ケニアの児童養護施設を運営しているNGOへ渡航し約4カ月間、現場で勉強をさせていただきました。
つながりを経て、「モヨ・チルドレン・センター」へ
ーー現在は、ケニアの「モヨ・チルドレン・センター」でご活動されていますが、そこに至る経緯を教えていただけますか。
モヨ・チルドレン・センターに出会ったのは、偶然のつながりでした。
はじめは東南アジアを中心にNGO団体を探していましたが、東南アジアで出会った人に「ケニアにこういう団体があるよ」と、ある団体(モヨ・チルドレン・センターとは別団体)を紹介してもらう機会がありました。
2017年に、看護師の休みを使い、団体の活動に参加するために初めてケニアに行きました。その団体の代表から「モヨ・チルドレン・センター」を紹介してもらい、2018年に実際に訪れ、「さらに活動に関わりたい」と感じて今も関わらせていただいています。
「自分はこう活動したい」という明確なゴールがあったと言うより、つながりやご縁によってたどり着きました。
人生を変えた、2つのターニングポイント
ーーなみほさんが人生を考えたきっかけや、ターニングポイントがあれば教えていただけますか。
ターニングポイントは、2つあります。
1つ目は、カンボジアに行ってストリートチルドレンを見たとき。
2つ目は、看護師を退職してケニアに来て、非営利団体のモヨ・チルドレン・センターでお手伝いをさせてもらいはじめたときです。
ケニアでの挫折
モヨ・チルドレン・センターでお手伝いをする時は、意気揚々とケニアへ来たのですが、実際にNGO活動に関わり、寄付で成り立っていることだとか、現場の厳しさを感じ、自分が本当にNGOの活動を続けていけるのか分からなくなってしまったんです。大袈裟ですけど、挫折だったと思います。
今までずっと「ストリートチルドレンをサポートするために看護師を辞める」と言ってきたのに、実際に現場へ来てみたら何の役にも立っていない。自分に何ができるんだろうと自信を失いましたし、「看護師を辞めてよかったのかな」と悩みました。
看護師を辞めるとき、「今まで先輩にたくさん指導してもらったんだから、恩返しのフェーズでしょ」とか、「このタイミングで辞めるのは、無責任だと分かってるよね」なんてことを言われましたが、それでも自分で辞めると決めて退職をしたはずでした。
結婚とか子供とか、自分の将来や看護師としての安定をすべて捨てて来たのに、ケニアで何をしていいのか分からない。でも、日本には帰りたくない。そのときが、一番辛かった出来事かなと思います。変なプライドとか、自分が縛り付けた鎖とか、もどかしさや劣等感、焦燥感で気持ちが沈んでいました。
自分の自信を取り戻した、RAHA KENYAとの出会い
ーーありがとうございます。その後、どのようにして立ち直り、ケニアでの活動を再開されたのでしょうか。
自分の将来について「このままケニアでNGOの活動をしていていいのかな。どうしよう」と悩み、自分の視野を広げてみようと、ケニアで活動されている方のSNSを見るようになりました。そうしたら、たまたまケニアのアパレルブランド「RAHA KENYA」という会社の代表(河野リエさん)のTwitterを発見しました。
私は今まで、「貧困」「働く場所がない」「ボランティア」など、ケニアを途上国というステレオタイプの考え方で見てしまうことが多かったんです。私自身が、そういう情報しか取り入れていなかったんだと思います。
でも、RAHA KENYAの代表リエさんのSNSを見たら、カラフルでポジティブで、現地のキラキラした素敵な部分にフォーカスして発信されていて、とても素敵だなと思ったんです。「私が知ってるケニアじゃない!」というか。
もっといろいろな世界があるなら見てみたいと思い、連絡を取り、ご縁があったという流れです。同じ「ケニア」という場所なのに、目線を変えるだけで発信の内容はまるっと変わるんだなと思いました。
「自分がケニアで何をしたらいいのか分からない」という時にリエさんに出会い、RAHA KENYAでビジネスや事業の興し方など、今まで経験したことのない業務を行うことで、新しい視点が学べると思いました。しがみつく思いでRAHA KENYAに入り、死ぬほど働いたからか、ケニアでの挫折を忘れていました。
スプレッドシートの使い方もショートカットキーも分からないし、商品製作やマーケティングもやったことはない。パソコンもほぼ使ったことはありませんでした。
SNSはFacebookぐらいしかやったことなかったし、Twitterも分からない。とにかくやったことないことだらけでしたけど、ひたすら無我夢中で食らいついていたら色々忘れていましたね。気がついたらのめり込んでいました。
落ち込んだり挫折したりしても、止まっていたら何も動かないですよね。
自分の環境で何ができるか考え、何が何でも突破する力が大事だと思います。医療現場にもつながりそうですね。新人看護師でいうと「できるか分からない」なんて言っていないで、「やるしかないよ!」というイメージです。
現在の働きかた
ーー現在のなみほさんは、ケニアでどのような働き方をされているのでしょうか。
週5日はRAHA KENYA、週2日はモヨ・チルドレン・センターで働いています。
しかし、去年モヨ・チルドレン・センター代表の松下照美さん(76歳)に肺癌が見つかってしまったんです。松下さんは日本に帰国して、治療に専念している状態なので、今は現地スタッフが協力して運営しています。
モヨ・チルドレン・センターは、松下さんが中心となって20年以上運営してきた団体なので、現在活動存続の危機に直面しています。日本とケニアの繋がりだったり支援者様の連携だったり、現場スタッフのマネジメント管理が難しい状態になっており、最近はRAHA KENYA以外の時間は、すべてモヨ・チルドレン・センターでの活動をしています。
RAHA KENYAは朝8時にはじまるので、朝6〜7時や業務が終わったあとの夜もモヨ・チルドレン・センターの活動をしています。
なみほさんの、ケニアでの1日スケジュール
ーー「RAHA KENYA」や「モヨ・チルドレン・センター」では、具体的にどんな業務を行っているのでしょうか。
RAHA KENYAでは、マーケティングと広報、新規事業のプロジェクトを担当しています。
マーケティングと広報では、現地のテイラーさんに作っていただいた商品や出来上がったものを、日本のお客様にお届けするまでの導線作りをしています。より多くの人にRAHA KENYAを知っていただくために、広報活動もしています。
また、RAHA KENYAはSNSマーケがメインなので、SNS運用を主軸にしています。何人のお客様にこの商品を届けたいのかという目標設定をし、SNS発信を元に数値分析をして、インプレッションやコンバージョンレートを分析しながら運用しています。
商品が完成したら、いかに魅力的にお客様にお届けできるかを考え、戦略と実践と振り返りを繰り返してPDCAを回していますね。
モヨ・チルドレン・センターでは、子どもたちの直接的なサポートは現地スタッフにお願いしています。私の業務としては、日本の支援者さんから寄付していただいたお金の適切管理、会計担当がメインです。
会計の仕事以外にも、より持続的でサステナブルな団体にしていくために課題を洗い出してアクションプランを練り、現場スタッフと一緒に1つ1つ行動に起こしています。
今後は改めて組織の基盤づくりを行いつつ、子どもたちの自立に向かって必要なアクションを重ねていこうと思っています。
未経験からの、仕事の学びかた
ーーマーケターや広報、SNS運用など、未経験からどのように仕事を学ばれたのでしょうか。
私はすべて、実践から学んでいきました。
最初はいろいろな企業のPR・マーケティング方法をインプットして、エッセンスを取り入れて実践を繰り返していました。「こう発信したら、こんなお客さんから反応をもらった」「この発信は全然伸びなかった」とか、ひたすら実践をしたらいろいろな数値が見えたんです。
たとえば「商品を販売する時に、インプレッション数がこのくらいになったら、何人がオンラインサイトに飛び、そのうち何人が購入してくださるんだな」と出てきた数値をかき集めて法則性を導いています。RAHA KENYA独自の指標を洗い出しながら、ひたすらに試行錯誤しています。実践しながら学ぶことが多く、今もアップデート中ですね。
ーーありがとうございます。
「RAHA KENYA」でも「モヨ・チルドレン・センター」でも、新しいことに挑戦されて大変そうなイメージもありましたが、とても楽しそうにお話されるので、過程も楽しみながら活動されるのは素敵だなと感じました。
今はいい思い出ですが、やっている当時は吐きそうになることもありました。(笑)
毎回自分にプレッシャーを課したり、未経験の業務に対しての恐怖や不安でいつも泣きそうになっていますよ。
RAHA KENYAで学んだことがモヨ・チルドレン・センターの活動にも生かされているので、学んだことを還元して次に生かせられたらと思います。
なみほさんが、今後挑戦したいこと
ーーなみほさんが今後こういうこともやりたいなと考えていることを教えてもらえればと思います。
今年(2022年)は、RAHA KENYAとモヨ・チルドレン・センターという、ビジネスとソーシャルセクターの仕事をどちらも頑張ることが目標です。
代表の松下さんが体調を崩し、モヨ・チルドレン・センターの継続的な運営が揺らぐ、大変な状況に関わらせていただいているので、さらにコミットしていけたらと思っています。RAHA KENYAのお仕事もとても楽しいですし、もっと素敵なブランドになるよう成長させていけるように、どちらも頑張れたらと思っています。
RAHA KENYAとモヨ・チルドレン・センターで、ビジネスとソーシャルセクターの、どちらも学んでいくような人生の築き方をしていきたいですね。
去年末ごろから、RAHA KENYAの仕事にコミットしつつ、モヨ・チルドレン・センターの活動により深く携わることができるようになり、自分と向き合う機会がたくさんありました。
でも結局、自分の原点である、大学生の時に感じた「ストリートチルドレンのサポートをしたい」という思いは、ずっと変わらないものだなとも思っています。
なので、どういう形であってもこの思いはずっと消さないで、今後も長くこの思いを大事にしながら生きていきたいです。
後輩の看護師・医療従事者に向けてメッセージ
ーー後輩の看護師さんや医療従事者さんに向けて、何かメッセージがあればお願いします。
自分への戒めとしても、後輩の医療従事者さんに「一緒に頑張ろう」という思いを込めても伝えたいことは、「自分のできる限界を決めないこと」です。
看護師や医療従事者になったり、新しい挑戦をしたり、看護師や医療従事者を辞めるとかでもそうだと思いますが、チャレンジしたいこと1つ1つに対してできない前提で考えたり、できない理由をあえて探したりしてしまいがちなのではと思うんです。
たとえば、海外に行くときに「英語できないから無理かも」だとか、看護師辞めたいときに「将来見えないしどうしようかな」「看護師のまま働いていたら安定じゃん」とか。やらない理由を考えがちで、それに対して自分で自分を納得させようとしている人が多いのではと思います。
でも、そんな現状維持でいる理由をすべて取っ払ってみたら、可能性は無限に広がっている。できる方法を考えてみたら、意外とたくさんあるのではないでしょうか。
できない理由を探すより、自分のリミッターを外して前に突き進んでいく勇気や大胆さを持っていると、より自分の人生に確信を持って進められると思っているし、私もそんな生き方をしたいなと思います。
今自分ができているか分かりませんが、自分自身にも「そうなりたい」と言い聞かせているので、1つのメッセージとして伝えたいですね。
一方で、「看護師や医療従事者になったけど、辞めようか迷っています」「学生でこのまま医療従事者になっていいか分かりません」という人の相談に乗ることもあるのですが、いつまでも迷い続けるぐらいなら、1度やってみなよと思います。
私自身は、3年間看護師として働いた経験が、とても心の支えになっています。ケニアですべて失敗して日本に帰っても、また看護師として頑張れば生きていけるだろう、という自信が自分のフットワークを軽くすることにつながっていると思いますね。医療従事者で「今後どうしよう」と考えている人は、1度やり込んで「どこに行っても働けるぜ!」と思えるようになれたら、強い武器になるのではと考えています。
ーー自分自身が行動して積み重ねた成功体験が、安心感や基盤作りに繋がりますね。たくさんお話を聞かせてくださり、ありがとうございました!
モヨ・チルドレン・センターのマンスリーサポーターについて
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なみほさんのX(Twitter):https://twitter.com/Namiho73
今回のインタビューは、動画としてもまとめています。気になる方は、YouTube動画もぜひご覧ください♪
(インタビュアー/記事編集:松岡マイ、取材協力:井川 千桜)
看護師ライター:井川 千桜さん
元看護師。大学院に進学し、生活習慣病の研究に従事。医療IT分野の最前線での就業経験も積む。病院・企業など多方面で活躍する「医療×ビジネスの架け橋になる人」を目指し、医療ライターとして健康情報などを発信中。おじいちゃんおばあちゃんと接するのが好きな田舎女子。
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