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調剤喫茶「farmatería」、屋台でつなぐ薬剤師いしまるさん

今回のゲストは、薬学生の頃から調剤喫茶「farmatería」の構想を考え続け、ついに昨年屋台を引きながら地域の健康相談にのる活動を開始されたいしまるさん

“近所の頼れるおっちゃん”を目指すいしまるさんに、薬剤師という職業の選択や調剤喫茶を開きたいと思うようになったきっかけ、これからの展望などたくさんの内容をお話していただきました。

今回のインタビューは、動画としてもまとめています。気になる方は、YouTube動画もぜひご覧ください♪

いしまるさんの自己紹介

写真提供:いしまるさん

ーー本日はお時間ありがとうございます。いしまるさんの自己紹介をお願いします。

今年の春から、7年目になる薬剤師です。
病院で3年間働いた後、施設在宅専門の調剤薬局、門前薬局を経験し、今はまんまる薬局という個人在宅の患者さんに特化した薬局に勤務しています。

個人での活動としては、屋台をひいて医療に関心のない道行く人の健康相談にのっています。「調剤喫茶」を開くことは学生の頃からの夢で、だれよりも身近な薬剤師になりたいと思い、日々活動中です。

ーー最初のキャリアとしては、病院に就職されていたのですね。

そうですね。僕は、専門的な知識を極めるのではなく、医療の翻訳者として身近な存在になりたいと思っています

その為に何が必要か考えたときに、医療の仕組みを知ることや医師や看護師等の医療従事者との関わり方を学ぶことも必要と思い、まずは病院に就職しました。
病院で病院の知識を学ぶというよりは、調剤喫茶を開くために必要なことを病院に学びに行ったというイメージです。

病棟業務に初年度から3年間関わらせてもらい、携わったことのない業務がほとんどなくなったところで退職をしました。自分の将来の夢は調剤喫茶を開くことであり、より将来像に近い”店舗業”である薬局での道を歩むことにしました

ーー現在働いておられる個人在宅に特化した薬局に転職された理由は何だったのでしょうか。

施設在宅専門の薬局や一人薬剤師など、薬局である程度経験を積んだあと、次は薬局の経営をしてみようと転職活動をはじめました。

いろいろな方から提案をいただき、その中でまんまる薬局の社長松岡さんとお話した時に、「君が本当にやりたいことはなんだ。君がやりたいことは日常を支えることなんじゃないか、本当に経営の勉強をしたいのか」と問われました。

その問いを受けて、「勉強して薬局が経営できるようになったとしても、僕の夢が叶ったわけではないな」と思ったんです。自分は経営ではなく、患者さんの日常を支える方法が知りたかったんですよね。

そして、松岡さんに「一番日常を知れるのは在宅医療だ」と教えてもらいました。「たしかに在宅医療なら、一人ひとりの悩みが自分の目で見てわかるな」と思い、今は個人在宅に特化したまんまる薬局で働いています。

調剤喫茶「farmatería」活動のきっかけ

写真提供:いしまるさん

ーーそのかたわら副業として調剤喫茶もやっておられますね。調剤喫茶の夢をもったきっかけは何だったのでしょうか。

もともと僕は医療系の家系ではなく、薬剤師になるとは考えもしませんでした。ただ漠然と”近所の頼れるおっちゃんになりたい“と思っていました。

そんな人がどこにいるかなと考えたときに、喫茶店で行われている井戸端会議の中心にいるなと思ったんです。
喫茶店のマスターが頼りになる人だったら、町じゅうみんな自分のことを頼ってくれるんじゃないか。僕は近所の頼れるおっちゃん=喫茶店のマスターだと思ったんですよね。

その後にたまたま薬剤師という職業を知りましたが、”近所の頼れるおっちゃんになりたい”という夢は変わりませんでした。

ーー調剤喫茶をはじめようと思ったのはいつからなのでしょうか。

喫茶店を運営したいと思ったのは大学の時です。屋台を引こうと考えはじめたのは、去年(2021年)の夏ごろですね。

個人宅を訪問する薬剤師として働く中で、患者さんの日常での悩みがたくさん見えてきて、どうアプローチしていけばいいのか悩んでいました。同時に、まだ誰にも発見されていない悩みを抱えている方たちもたくさんいるんだろうなと思ったんです

そんな方に「調剤喫茶」という形でアプローチをはじめたい。じゃあ今のサラリーマンという自分の立場からできることってなんだろうと考えました。

行動できるのは土日だけ、お金もたくさんあるわけではない。自分には何ができるのだろうとTwitterでつぶやいてみたところ、いろいろな意見をいただきました。
その中であるフォロワーさんに「屋台を引いているドクターがいるよ。いしまるさんもできるんじゃないの」と背中を押してもらいました。

去年の8月に屋台を引こうと決めて、9月にクラウドファンディングを行いました。クラウドファンディングを使用したきっかけは、参考にさせていただいたドクターも使用していたことです。クラウドファンディングという物珍しさや拡散性を利用して、お金だけでなく仲間や支援者集めのためにも挑戦すると決めました

ーーいしまるさんは、Webを通してさまざまな良い関係性を生み出しているイメージなのですが、何か工夫されていることはありますか。

課題がなくてもお話しましょうとよく言いますね。「今日は何してたの、何があったの」と気軽な話をしています。課題ありきで話すと、ビジネスチックな印象になってしまうなと思っていて。そういったところから、自分の人間味を伝えていけたのかなと思います。

調剤喫茶「farmatería」としての第一歩、屋台をひく薬剤師

写真提供:いしまるさん

ーー屋台を引く調剤喫茶「farmatería」は、どんな形態で活動されているのでしょうか。

許可を得たお店の前に、自前の屋台を置かせてもらっています。屋台でお湯を沸かしてお茶を入れ、物珍しそうに見ている方に声をかけて配るというのが、今の調剤喫茶での活動ですね。「お茶いかがですか?漢方のお茶で、僕は薬剤師なんです」といった感じでお話させていただいています。

お茶は4種類あって、Twitterのフォロワーさんがブレンドしたお茶なんです。かわいらしい商品名からおおよその効果をくみ取っていただけるようになっていて、むくみのお茶や美容のお茶などがあります。お茶を選んでいる間に体調の悩みがわかり、お茶を選んでもらう過程で体調のアセスメントができるようになっています。そうすると、無意識に健康の話につながるんですよね。

ーー屋台を引きながら健康相談を実際にやってみた感想はいかがでしょうか。

自分が想定していた通り、薬局にも病院にも話せない悩みを抱えている人は多いなと思います。
一方で課題も見えてきて、自分が「何か相談ありませんか」と問いかけている以上、診察室で「体調どうですか」と聞いているのと変わらないのではとも感じています。相手から話してもらうための改善方法を模索中です。

僕は、最初は屋台を引いてお茶を出しているだけでよかったはずなんですよ。でもそこで健康相談が来ないと、物足りなさを感じてしまうんです。なんとか健康相談を聞き出そうとしてしまう、焦っている自分がいますね。

店舗を持ってたら違うのかもしれませんが、屋台だと長時間居続けられないこともあり、短時間で何か結果を出そうと意識しすぎてしまっているのかもしれません。だめですねぇ……。笑

ーー現在調剤喫茶は一人でやっておられるのでしょうか。

ありがたいことに、クラウドファンディングなどで一緒に屋台をひく仲間も見つかりました。
今は渋谷の100BANCHという、プロジェクトを推進するようなアクセラレーションプログラムに加入しています。このプロジェクトでは、バックオフィス的な立ち位置でサポートしてくれるメンバーがいます。

ーー100BANCHは、とくにどのような面において利用されていますか?

個人で屋台を引く今の活動は、慈善事業から抜け出せない部分があります。
今は僕の想いがあるからできるけれど、はたして人を巻き込めるのかと思ったときに、僕が現場にいない状態ではできないと思っています。儲かるわけでもないし、必ずしも人の役に立てるわけじゃない。空振りに終わることもある活動です。

これを誰かに「あなたの想いでやってください」とお願いしても、良いものになる気がしなかったんですよね。

でも社会的なインパクト、ムーブメントを残すには自分一人じゃ限界があると思いました。人を巻き込んで、同時多発的に同じような活動をしてもらわないと、変えられないものがあるのではないか。そこに価値があるんじゃないかと思っています

今のこの活動を自分から積極的に開催してもらうには、マネタイズと提供側が提供疲れを起こさないような仕組みが必要だなと思いました。
100BANCHでは、1つのロールモデルとして屋台を作るだけでなく、慈善事業(ボランティア)から抜け出せる方法を模索しています。

喫茶店のマスターから薬剤師へ。人生のターニングポイント

写真提供:いしまるさん

ーー人生を変えたターニングポイントがあれば教えてください。

薬剤師を目指しはじめたことが、ターニングポイントです。
高校1年生のとき、初めてのアルバイト先がドラッグストアでした。僕には、そのドラッグストアの薬剤師さんがその地域の”近所の頼れるおっちゃん”に見えたんですよね。そこが喫茶店のマスターから薬剤師へ、夢が変わったきっかけでした。

ーーアルバイト先の薬剤師さんは、どんな人だったのですか。

いろいろな人に話しかける、変わった人でした。話の内容の大半は下らない内容でしたが、とてもフレンドリーで頼れる人でした。

しかし、体のことや健康の話題になると、「ここはどうなの、病院行かなくて大丈夫なの」とスイッチが変わる瞬間のある人だったんです。いつのまにか健康相談が始まっていて、これがこの薬剤師さんの真の姿なんだなと思っていました。

あとは、3つ目のキャリアとして山形県で1人薬剤師(薬剤師1名体制で薬局を営業すること)に挑戦した時もターニングポイントだったかなと思います。この時初めて自分の考えていることのアウトプットを始めたんです。SNSでの活動を始めたのがこの時期でした。

わからないことをTwitterでつぶやいたら、たくさんの薬剤師さんが助けてくれました。声を上げて人に頼ることを学び、自分ももっと頼られる人になりたいと思いました

辛かったことや失敗したこと

写真提供:いしまるさん

ーー活動する中で、辛かったことや失敗したことはありましたか?

辛かったことは思い浮かばないですね。何事も楽しんでいると思います。
失敗したことは、もう少し世界を早くから広げておけばよかったなということですね。今思うと、病院勤務の時は責任のある仕事も少なく、もう少し時間に余裕があったと思います。この頃にもう少し世界を広げられていたらと思うときはありますね。

ーー世界を広げるというのは、具体的にはどんな内容でしょうか。

社会人になったばかりの頃は、調剤喫茶をやるというキャリアプランを自分の中で考えていただけでした。でもいろいろな人と話す環境に身を置くと、その考えがいかに偏っているか、自分の思い込みだけで世界が作られているかということに気づきました。

自分だけが考える世界に、自分だけで想定したニーズがあるのは当たり前なんです
でもいろいろな人と話すうちに「こんな人もいるよね、こういう考えもあるよ」と新しい視点から意見をもらうことが増えました。結果的にやることが変わらなくても、広い世界で考えてアプローチすることで自分の信念に真剣に向き合えるようになりました

自分の活動の理由を言語化して人に伝えられるようになると、自分の言葉に力が増し、周りからも理解してもらえるようになります。いしまるという人間にどんな思いがあって活動しているか分かってもらうことで、自分の自信にもつながるという循環が生まれた気がします

写真提供:いしまるさん

Twitterの繋がりから、壁打ちしてもらえる相手がたくさんできたことで、自分の想いも定まりました。

ーーTwitterにも「1on1はDMにて」とお書きになっていますね。

僕自身、たくさんの方に1on1で壁打ちしていただいて、見えてきたものがありました。
なので、自分も悩んだ時に助けてくれた方々のように何か役に立てたらいいなと思っています。一方的に話を聞くだけでなく、自分にはない考えが聞けたり思いがけない発見があったりもするので、自分にとっても良いきっかけだなと思いプロフィールに書いています。

ーー新聞の取材などでも、いろいろなところに繋がりをお持ちですね。きっかけや、参加してよかったものなどあれば教えてください。

今回の新聞の記事につながった一歩は、西日暮里でのエルミナという活動でした。
その際は、薬剤師の鈴木怜那さんたちと一緒に、荒川区のヘルスリテラシーを高めようという活動をしていました。怜那さんが性教育に関わる活動されているところに、自分は屋台から通りゆく方々に声をかける活動をさせてもらっていて。そこに目をとめた荒川区のローカルメディアの記者さんがネット記事にしてくださったことが、新聞やLINEニュースにつながる大きなきっかけでした。

現在の働き方

写真提供:いしまるさん

ーー現在の働き方を教えていただきたいです。

現在は、週5日はまんまる薬局にて、個人在宅への訪問薬剤師として働いています。
調剤喫茶「farmatería」は、個人的な仕事として土日に活動中です。薬局や施設、病院に行って勉強させてもらったり、コラボ先を探したり、屋台をひいたりしています。

調剤喫茶「farmatería」では、実際に喫茶店で席を1つ借りて、常駐するという計画を進行中です。想いを発信していると、共感してくれる方が多くて。一日店長としてバーに立ってくれないか?とお話をいただけたこともありました。

ーー週7日でフル稼働されていますが、体調面など何か工夫していることはありますか。

週に1回は仕事後の予定をいれないようにしています。昼寝もしていますよ。
今の活動って将来の大変さの前借だと思っています。独立してから大変な方ってたくさんいますよね。
今は、店舗を持つ前から集客、仕組化、将来ぶつかるであろう課題の明白化などをしています。好き好んで将来の課題に取り組んでいるだけだと思っているので、気は楽ですね。

今後やりたいこと

写真提供:いしまるさん

ーー今後いしまるさんが挑戦したいことはありますか。

調剤喫茶を店舗として設けて、喫茶店に常駐する薬剤師として”地域の頼れるおっさん”として生きていきたいなと思っています

カフェ併設の薬局の多くは、待ち時間を有意義に使ってほしい、気軽に薬局に来てほしいという意図で作られていると思います。
しかし、どれだけ薬局のハードルを下げてもそこは薬局なんですよね。たとえば、美容室にお茶だけ飲みに来る人っていないじゃないですか。

僕の目的は日常に溶け込むことなので、「カフェ併設の薬局」は主語が違う気がしています。喫茶店にちょこっと薬局のスペースを作るくらいのバランスで運営したいなと思っています。

後進の薬剤師や医療従事者へのメッセージ

ーー最後に後進の薬剤師や医療従事者に向けてメッセージをお願いします。

薬剤師になった後にやりたいことを思い浮かべて、どんどん声に出して発信してほしいなと思います
声に出すと思ったより皆さん支持してくださいます。1人の方が手伝ってくださると、連鎖するように多くの方が手伝ってくれたり、アドバイス下さったりしたというのが僕の実例です。
自分のやりたいこと、どうありたいかを思い浮かべて発信してほしいと思います。

ーー本日は、ありがとうございました!

今回のインタビューは、動画としてもまとめています。気になる方は、YouTube動画もぜひご覧ください♪

(インタビュアー/記事編集:松岡マイ、ライター:中川あや)

この記事の執筆者

薬剤師ライター:中川 あやさん

大阪薬科大学卒。地元の調剤薬局で薬剤師として従事する傍ら、ライターにも挑戦。
”いつでもどこでも働ける”を目指して自分の働き方を模索中。「読んだ後、その先の行動へつながる記事」を目指して執筆しています。

SNS(X):https://twitter.com/laugh_a_a
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執筆

京薬卒、(株)Medited代表取締役。 医療・取材ライターや医療系介護メディアの編集長業務、キャリアスクールでの講師メンター業などを経て2020年よりオンライン動画講座「医療ライターのはじめかた」メディア「MediJump」の運営を開始。2022年より医療×Webクリエイターの交流コミュニティ「MediWebラボ」をスタート。2023年に法人化し、経済産業省JStarX起業家プログラム等に採択。「医療資格は、ずっと味方」をテーマに活動しています。