病気や体調不良により、「もう臨床現場で働くのは無理かもしれない」と不安や孤立感を抱えていませんか?
かつて体調を崩し、「薬剤師の現場にも福祉の枠組みにも馴染めない」という葛藤を抱えていた薬剤師のなかこまさん。在宅ワークならできるかもと、第19回「Medi+医療ライターのはじめかた講座」(2024年9月開催)を受講しました。そして一度は諦めかけたものの、在宅での医療ライター活動を通して、自分に合った稼働量や限界を客観的に把握し、現在は週20時間の非常勤職員として見事病院薬剤師への復職を果たしました。
フルタイムだけが正解ではない――自分に合った心地よい働きかたを見つけるまでの道のりと、一歩踏み出すためのヒントをお届けします。
病院薬剤師に復帰、なかこまさん

ーー本日はよろしくお願いします!まずは簡単に、これまでのご経歴を含めて自己紹介をお願いできますか?
よろしくお願いします、薬剤師のなかこまです。
私は大学を卒業後、新卒で製薬企業に入社し、ジェネリック医薬品やOTC医薬品の研究開発や人事などの業務に携わっていました。しかし、途中で体調を崩してしまい、休職を挟みつつ2年ほど勤務したのちに退職することになりました。
その後は薬局薬剤師として働いたり、就労継続支援B型事業所*(以下、B型事業所)を利用したり、飲食店のアルバイトをしてみたりと試行錯誤を重ねてきました。現在は精神障害者保健福祉手帳(2026年7月現在)を所持しており、在宅での医療ライター活動を経て、2026年6月から病院薬剤師として障害者雇用のパート枠で復職を果たしています。
「薬剤師として働けない」孤独な療養期間
ーーありがとうございます。差し支えない範囲で、体調を崩された経緯や当時の状況について教えていただけますか?
そうですね。精神疾患ということもあり一概には言いづらいのですが、自分の症状としては過去の「トラウマ的な体験」が強く関係しています。
睡眠不足や生活習慣の乱れなどで体調が優れないタイミングに、過去のトラウマや嫌なことを思い出すような出来事が重なると、一気に生活のリズムが崩れてしまい、最悪の場合は入院してしまう状態でした。
ーートラウマ的な出来事と体調が連動してしまっていたのですね。具体的にはどのような生きづらさ、働きづらさがあったのでしょうか?
一般的な薬剤師の仕事は、患者さんとの対面業務や多職種との流動的なやり取りが中心です。相手に合わせる場面が多く、ストレスやトラウマになるような刺激を自分でコントロールすることが難しいんですよね。新しい環境で緊張しているなかで、患者さんとやり取りをするうちに、過去の出来事がフラッシュバックのようになって体調を崩してしまうことがありました。
一方で、B型事業所などの福祉施設は、基本的に一般就労(フルタイム)に向けた訓練を目的としている場所が多い印象です。事業所側も「少しずつ時間を延ばしてフルタイム枠に当てはめよう」という支援が中心になるのですが、自分の体調的にフルタイムで働くのはどうしても厳しくて……。
また、周りの利用者さんともなかなか話が噛み合わない部分もあり、薬剤師という現場にも、福祉の枠組みにも、どちらにも上手く当てはまらないという感覚がありました。
ーーそのような「どちらの枠にも馴染めない」難しさの背景には、薬剤師資格を持っているからこそのギャップもあったのでしょうか?
それは正直、とても大きかったと思います。周りからは「飲み込みがはやい」と言われることが多く、普段は業務を要領よくこなせてしまうんです。そのため、どんどん仕事を任されてしまい、気づけば体調を維持できる限界を超えてしまっていて……。
そこに嫌な出来事が重なると一気に動けなくなってしまうのですが、周囲から見ると「昨日まで普通に働いていたのに、なんで急に復帰できなくなるの?」と不思議に思われてしまうことが多く、自分の限界が理解されにくいのが過去の就労での大きな悩みでした。
ーー薬剤師としての道も厳しく、福祉のサポートもしっくりこない……当時の心境はいかがでしたか?
率直に言って、「もう自分は働くのが無理なんじゃないか」と思っていました。元々トラウマ体験もあって自己肯定感が低かったうえに、企業への就職にチャレンジしても途中で体調を崩してダメになってしまう。
「自分にはキャパシティがないんだから仕方ないよね」と、どこか諦めてしまっていたのが当時の本音ですね。
医療ライターで自立を目指して

ーーそんな深い孤独感や諦めがあったなかで、在宅で働ける「医療ライター」やコミュニティ「MediWebラボ」に興味を持たれたきっかけについて教えてください。
B型事業所もアルバイトも上手くいかず、二度の入院を経験したあとに「もう外に出て働くのは厳しいかもしれない。だったら、在宅ワークはどうだろうか」と思ったんです。
当時はまだ在宅ワークの情報が少なかったので、まずは情報が集まる環境に身を置きたいと思い、見つけたのが「MediWebラボ*」です。「MediWebラボ」に参加すれば、在宅ワークの情報が入ってくるんじゃないかと思い調べていたところ、「Medi+医療ライターのはじめかた講座」の存在を知りました。文章力を鍛えておいて損はないはずと考え、受講も一緒に決めました。
「Medi+」で自分に合った働きかたを再認識
ーー受講後は、実際に医療ライターとして活動して、「自分に合う働きかた」がわかるようになってきたとお聞きしました。臨床現場に復帰するにあたって、その経験はどのように役立っていますか?
在宅での医療ライター活動は、自分のキャパシティの範囲内で稼働量を調整できるのが大きなメリットでした。「これ以上稼働を増やすと体調を崩す」「この範囲なら自分の能力を最大限に発揮できる」という自分の限界値を把握できるようになりました。
受講前は「絶対にフルタイムで働いて、福祉にも頼らずに自立しなきゃ」と思い込んでいたんです。しかし、医療ライターの仕事を通して、私の場合には1日4時間程度の稼働を超えるとパフォーマンスが落ちたり体調を崩したりしやすくなることが実感できました。
「フルタイムで働くこと」を目指すのではなく、「福祉の力も借りながら、できる範囲で社会に貢献していくのが自分にとっての最適解なんだ」と気づけたのは、医療ライターとして働いたからこそ得られた大きな収穫でした。
復帰の支えとなったMediWebラボのつながり
ーー講座や「MediWebラボ」での出会いも、なかこまさんにとって支えになったそうですね。
「MediWebラボ」での交流は、自分にとって心強いものでした。
外で働けなくなってからは家にひきこもりがちで一人で過ごすことが多くなりましたが、温かく接してくれる仲間がいたことで、「自分にも居場所がある」と思えるようになりました。
また、メンバーの皆さんが日々の生活を楽しんでいる姿を見られること自体が、私にとってとても大きな支えになっていたんです。
例えば、講座同期のゆうこさんがデザインの仕事や育児に悩みながらも、お子さんと楽しそうに過ごしている様子や、まなみさんが推し活を楽しんでいる姿、あきさんが海外旅行に行かれている姿が印象的です。
当時の私は体調のこともあり、そういった暮らしや体験を自分自身で楽しむ余裕がなかなか持てない状態でした。だからこそ、関わってきた方々が「私ができない体験」を代わりに楽しんでくれている姿を見るだけで、なんだか自分まで元気がもらえたんですよね。
オンライン・オフラインを問わず、自分の世界を広げてくれる仲間とつながれたことが、メンタルの安定につながり、少しずつ「もう一度外の世界に出てみよう」と思える原動力になりました。
自分の「本来の能力」を発揮できる職場を見つけてほしい

ーーそこから、どのような経緯で病院薬剤師として復帰することになったのでしょうか?
医療ライターとして「週20時間程度の稼働、そして適切なコミュニケーション量であれば無理なく働ける」という自分の適性が明確になったので、その条件や自分の状態、医療ライターとしての活動について主治医に話していたんです。
すると、主治医から「それなら、うちの病院でちょっと働いてみない?」と声をかけていただきました。それから業務について調整を進め、いきなり本採用となるのではなく、まずは約1ヶ月間のジョブトレーニングからスタートすることになりました。
そして、実際の現場で体調や適性を病院側と相互に確認し合えたことで、2026年6月より障害者雇用のパート薬剤師として正式に雇用していただきました。
ーー最初の1ヶ月間の「ジョブトレーニング」では、具体的にどのような業務をされたのでしょうか?
実際の業務では、分包機に入れるための錠剤の準備や注射調剤、薬袋の書きかたなど、その病院における調剤の基本的な流れを教わりました。病院ごとに業務手順やルールは異なるので、まずは職務の流れを一から覚えていく作業です。
ただ、それ以上に重要だったのが「体調管理の実践」です。業務を覚えつつ、「この条件なら体調を崩さずに働き続けられるか」「少しずつ勤務時間を伸ばしていけるか」という、体調面の慣らし期間としての役割も大きかったですね。
ーー1ヶ月間のジョブトレーニングを実際に終えてみて、体調面や心境はいかがでしたか?
最初は「1日2時間」という短時間からスタートしたのですが、慣れない環境ということもあり「たった2時間でもこんなに大変なんだ……」と戸惑うこともありました。最初は業務の一部分だけを教わる形だったので、「今、全体の中で自分は何の作業をしているんだろう?」と迷う場面もありましたね。
しかし、4週間かけてじっくり働いていくなかで、仕事のメリハリがわかるようになってきたんです。集中しなければいけないところや、気を詰めすぎずに取り組むところなどを体感しながら学べたのは、ジョブトレーニングがあったからこそですね。おかげで思いがけず順調に働け、無事に正式採用につながりました。
ーー主治医からの提案が復帰のきっかけだったのですね。ジョブトレーニングは、なかこまさんにとっても改めて働きかたを考える分岐点になったと思いますが、現在の職場で働き続けることを決めた理由は何でしょうか?
やはり、自分の特性や体調の限界を理解した上で、無理のない環境を整えてくれたことです。
実際には、主治医と所属長とが連携していただいており、業務環境への配慮がありました。また、元々通院していた病院ということもあり、他のスタッフさんにも顔見知りの方が多く、最初からアットホームで和気あいあいとした雰囲気の中で働けたんですよね。
業務への配慮や、温かく迎えてくれるスタッフの皆さんとの居心地の良さを感じて、「ここなら無理なく、楽しくやっていけそうだな」と思えたことが一番の決め手でした。アットホームな環境で、周囲の理解に恵まれながら心地よく働かせていただいています。
【病院薬剤師なかこまさんの1日のスケジュール】
| 6:30 | 起床 |
| 朝食・準備 | |
| 8:30~11:30 | 英語学習・執筆活動など |
| 11:30~13:30 | 昼休憩 |
| 14:00~18:00 | 病院薬剤師として勤務 |
| 18:00~19:30 | 運動など |
| 19:30~ | リラックスタイム |
| 23:00 | 就寝 |
現在、病院での勤務は午前または午後のどちらか半日です。そのため、病院勤務がない時間帯は学習や執筆などの個人活動をしています。とてもメリハリのあるバランスの取れた生活を送っています。
創作活動で気持ちの発散

ーー勤務がない時間も有効活用されていて素晴らしいですね。今後の展望や挑戦したいことについて教えてください。
今は英語、創作活動、薬剤師業務など、幅広くチャレンジしているところです。
医療ライターとして活動しているとき、医療翻訳にも興味を持ち、英語は継続的に学習を進めていました。2026年3月に自分の翻訳が通用するか、試しにトライアルを受けてみましたが、その結果は「あと一歩」という悔しいものでした。再度トライアルに向けて準備を進めており、結果次第では、本格的に自己投資をして英語を学んでいこうかと考えています。
創作活動については、最近ZINE*のイベントや美術展に出展してみたんです。すると、想像以上に反響があり、手応えを掴みはじめています。県の美術展や、別のZINEのイベントに向けて、自分のペースでのんびりと準備を進めているところです。言葉にして表現することは、自分にとって気持ちの発散や整理のプロセスでもあるので、これからも無理ない範囲で続けていきたいですね。
ーー英語も創作活動も、とても前向きに活動されていますね!本業である病院薬剤師の仕事については、今後どのように関わっていきたいですか?
薬剤師の仕事に関しては、職場でも「細く長く続けていきたいです」と伝えていて、焦らず自分のペースを大切にしたいと思っています。
休憩時間や業務の合間には蔵書を読ませていただきながら、知識の勉強も進めています。実務の感覚を養いつつ、医療の最新トレンドを業務の中で学んでいけるのはとても面白いですね。
ーー医療・英語・創作と、表現や知識の幅がどんどん広がっていきそうです。
将来について「この道一本で行く」と決めているわけではなく、今はさまざまな可能性の種をまいて模索している段階です。種をまいて進めながら、これだとしっくりくるメインの軸を選びつつ、気分転換も兼ねて多くのことに挑戦していきたいですね。自分に合った心地よいバランスを探しながら、歩んでいければと思っています。
フルタイムで働くことだけが「正解ではない」
ーー最後に、過去のなかこまさんのように、思うように働けずに悩んでいる方へメッセージをお願いします。
世間一般の「フルタイムで働くこと」だけが決して正解ではありません。
一度立ち止まって自分の能力や限界を客観的に知ること、そして周りの力を借りることは、逃げではなく自分を守り活かすための立派な選択肢です。
もし今の環境で苦しんでいるなら、まずは自分の心地よいペースや働きかたを知ることからはじめてみてください。完璧を目指さなくても、自分に合った環境さえ見つかれば、あなたの本来の能力を発揮できる場所は必ずあります。
ーーなかこまさん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
【なかこまさんの転職成功ポイント】
1. 医療ライターの仕事を通して、フルタイムにこだわらず、体調を崩さずにパフォーマンスを発揮できる「自分に合った働きかたや限界」を見極めた
2.「MediWebラボ」などのコミュニティで仲間と出会い、精神的な安定を得て、再び動き出す原動力を醸成
3.自身の適性を知った上で、ジョブトレーニングや業務配慮を通じて、無理なく働ける環境を職場と一緒に整備

