20日が締切の仕事なのに、締切当日の20時や21時に提出していませんか?
駆け出しの頃は、「納期当日の夜遅くまでに提出すればいい」と思っている人も、意外に多いかもしれません。
筆者は、2017年から看護師兼医療ライターとして活動してきました。現在は、さまざまな医療系メディアでディレクションも担当しています。その中で、締切当日の遅い時間に原稿が提出される場面を何度も見てきました。
しかし、そのギリギリの納期は本当に「相手」のためのものになっているでしょうか。法人案件を継続して受注できかどうかを左右するのは、実は営業力だけではありません。
看護師ライター白石さん
相手の状況を考えて仕事を進める「クライアントワークができているかどうか」で決まります。
今回は、法人案件で求められるマインドセットについて、法人案件ならではのリアルな話や、医療現場の「あるある」エピソードも交えながら考えてみます。
この記事における言葉の定義


法人案件とは、株式会社や医療法人など組織立った相手から、担当部署や専任の担当者を通じて依頼を受ける仕事のことです。
個人事業主や個人メディア運営者から直接依頼を受ける「個人案件」より、継続や横展開(いろいろな部署から声がかかること)につながりやすい特徴があります。



白石さん
そしてクライアントワークとは、依頼された作業をこなすだけでなく、相手に関心を持ち、何に困っていそうかを考えながら仕事を進めるスタンスのことです。
この記事では、法人案件とクライアントワークという2つの言葉を軸に、法人案件が続いていく理由を考えていきます。
法人案件ならではの広がりと難しさ


法人案件には、個人案件とは違う独自の広がり方があります。最初は小さな依頼でも、対応を重ねるうちに他部署から声がかかることも珍しくありません。ここでは、その広がり方や得られるものと合わせて、知っておきたい難しさについても見ていきます。
一本の依頼から、仕事は広がっていく
法人案件は、対応を重ねるほど、新しい仕事へとつながっていきます。



白石さん
一つの依頼を起点に仕事の幅が広がっていくことこそ、法人案件ならではの醍醐味だと感じています。
そのきっかけは、多くの場合、「〇〇についての記事を書けますか」といったシンプルな相談です。
筆者も、医療現場を知っているからこその切り口や言葉づかいが評価され、同じ会社の別の部署からも声をかけていただくことがあます。オウンドメディアの記事制作からはじまり、社内報や採用サイトの記事、新しいメディアの企画・立ち上げなど、複数の仕事を任されるようになりました。
こうした流れは、筆者から新しい仕事を強く提案して生まれたものではありません。働きぶりを知る人から声をかけてもらい、仕事につながる場合がほとんどです。別の担当者へ紹介してもらうこともあります。
筆者が毎月やりとりする7〜8社の半数以上では、社内の複数の担当者や部署から仕事を任されています。そのため、新規の営業活動は、ここ数年ほとんどしていません。
また、これまでに何度か、転職して数年経った元担当者から、看護師さん向けの取材のようなテーマで声をかけていただくこともありました。



白石さん
「この分野といえばこの人」というポジションになれていたのかもしれません。
法人案件が積み重なるほど得られるもの
法人案件の実績があること自体が、次の法人案件を得るための信用材料になります。筆者は駆け出しの頃から、大手と呼ばれる媒体で書かせてもらう機会に恵まれました(意図的に「大手の媒体記名記事を書いていこう」という考えがありました)。
数年経った今では、過去記事やポートフォリオを確認されることなく、依頼を進めてもらえることも多くあります。誰もが知っている媒体で長年にわたり何百本も書いてきた実績を伝えるだけで、「あそこで書いていた医療ライターさんですか」と、信頼してもらえるからです。ただ、過去の実績に見劣りしないよう、成長し続ける必要も出てきます。
法人案件で得られるのは、実績だけではありません。
法人案件の場合、編集者だけでなく、イラストレーターやカメラマンなど医療従事者ではない方と協力する機会も多いです。



白石さん
言葉や前提が異なる相手にわかりやすく伝える力は、個人相手の仕事だけで得にくい経験だと感じています。
広報系の仕事になると、部署をまたいだ確認や社長決裁が必要になることもあります。かかわる部署が増えるほどそれぞれの立場での「正解」があり、部署同士の意見がぶつかることも珍しくありません。こうした経験により多角的に見る目と柔軟な対応力が身につくと、看護師の本業にも大いに役立ちます。
取引面での安心感も、法人案件に取り組むメリットです。「案件が突然なくなる」「担当者と連絡が取れなくなる」といった不安が少なく、契約書や支払い期日が明確なのも、組織相手ならではの安心材料です。
一方で、最初の一歩のハードルは高い
もちろん、法人案件は良いことばかりではありません。実績や紹介がなければ、そもそも声がかかる機会自体が少ないのが実情です。
個人案件のように、募集を見つけてすぐ応募できるとは限りません。最初の一社にたどり着くまで時間がかかることも多く、駆け出しの頃は特に遠回りをしているように感じるかもしれません。
だからこそ、まずは目の前の仕事を「きちんとやる」ことが大切になります。当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、これができているかどうかは、後々の信頼に大きく関わってきます。ここからは、日々のクライアントワークという視点で、その中身を具体的に考えていきます。
クライアントワークを医療現場で考える


クライアントワークという言葉だけだと、イメージしづらく、少し難しく感じるかもしれません。そこで、医療現場で「一緒に働きたい」と思われる人の振る舞いに置き換えてみましょう。驚くほど共通点が見えてきて、ぐっとイメージしやすくなります。
自分の業務だけをこなす人
看護師さんや薬剤師さん、理学療法士さんなど、医療現場で働く人なら、目の前の業務をこなすだけで精いっぱいになる瞬間があるのではないでしょうか。記録や申し送り(次の担当者への引き継ぎ)を後回しにして、伝えるべきことが漏れてしまうこともあります。
- 看護師さんなら、申し送りが不十分で、夜勤の人から「これってどうなっているんですか?」と確認されてしまう。
- 薬剤師さんなら、疑義照会*でのやりとりが、次の担当者にうまく伝わっていない。
- 理学療法士さんなら、次のセラピストにプログラムの意図が伝わりきらず、患者さんへの説明がその都度ずれてしまう。



白石さん
忙しさの中で目の前の一件に集中してしまうのは、誰にでも起こりうることです。
次の人・相手を想像して動く人
一方で、一緒に働いていて「この人は違うな」と感じる人もいます。
- 看護師さんなら、夜勤の人が来る前に、優先して確認してほしい内容を先に申し送っておく。
- 薬剤師さんなら、疑義照会のやりとりを記録に残し、次の担当者がすぐに確認できるようにしておく。
- 理学療法士さんなら、次のセラピストが迷わないよう、プログラムの意図や注意点を一言添えておく。
自分の業務だけをこなす人との決定的な違いは、目の前の患者さんや利用者さんの状況を想像しながら、次に対応する人のことも考えて動いている点です。
相手を想像して動く人は、たとえ仕事の知識や技術が飛び抜けているわけでなくても、一緒に働いていて安心しますし、働きやすいと感じます。こうした気配りは、新人の頃からすぐにできることではありません。
他職種との関わりが多い医療現場では、駆け出しの頃は目の前の仕事で精いっぱいなのが当然です。



白石さん
自分の仕事が周りにどう影響するか想像し、行動できるようになると、また一段階、階段をのぼれる感覚があります。
同じような成長のプロセスは、医療現場に限らず、医療ライターやクリエイターの仕事にも通じる成長のプロセスだといえるでしょう。
こうした「相手を想像する視点」に加えて、もうひとつ、法人案件を継続するうえで見落とされがちな要素があります。
「副業だから」はクライアントには関係ない


医療資格を持つ人が医療ライターやクリエイターとして活動する場合、「うまくいかなくても本業がある」という安心感が、ときに大きな支えになります。ただ、この安心感に頼りすぎると、成長がとまってしまうこともあるかもしれません。



白石さん
筆者にも、医療ライター2年目に少し自信がつきはじめた時期がありました。簡単なコラム記事なら、書けるようになってきたころです。
そんなとき、駆け出しからお世話になっていた編集者に「医療ライターとして食べていきたいのか、お小遣い稼ぎができればいいのか」と聞かれたことがあります。
振り返ると、当時はライティングのスキルもまだ十分ではありませんでした。看護師という肩書きや、編集者のサポートに支えられていた部分を、筆者自身の実力だと思い込んでいたのかもしれません。副業だからこそ、本気で向き合う姿勢が問われる、というひとつの気づきになりました。
副業かどうかは、依頼するクライアントにはまったく関係のない話です。仕事として依頼している以上、「この人は副業だから」ではなく、「副業なのに、このスピード、このクオリティなんだ」と思ってもらえるかどうかが、ひとつの分かれ道になります。



白石さん
そして法人相手の仕事は、この本気度がそのまま信頼として積み重なっていく場所でもあります。
安心して任せられる人の共通点


多くの医療ライターさんやクリエイターさんと仕事をしていると、安心して任せられる人かどうかは、メールのやりとりを少しするだけでだいたいわかります。
特別な資格や実績がなくても、日々のやりとり次第で「また頼みたい」と思ってもらえるようになります。共通しているのは、たとえば次のような行動です。
要点がひと目で伝わる文章を書く
結論から先に書き、余計な前置きを挟まない。
たとえば、件名を「【◯◯についてのご相談】」とし本文も「今回はA案で進めます。理由は◯◯です」のように結論から書きます。パッと読むだけでポイントがわかり、それだけで安心感につながるでしょう。
逆に、背景や経緯を長く説明すると、なかなか本題にたどりつけません。たとえば、「いつもお世話になっております。(中略)まず◯◯という状況でして……」と前置きが続くメールです。忙しい相手にとっては、読むのがつい億劫に感じ、要点をつかむまでに余計な時間もかかります。
必要な情報を先回りして伝える
聞かれる前に必要な情報を添えておく。たとえば現状の進捗と確認点を先に伝え、「A案・B案のメリットとデメリット」まで判断材料として渡す姿勢です。
ひと言の気遣いを添える
「お忙しいところ恐れ入ります」「助かりました、ありがとうございます」といった一言も自然に添えられると、テキストでのやりとりにストレスがなくなります。
すぐに回答できなくても一言入れる
すぐに答えが出せない内容でも、「確認して〇日までに連絡します」と一言返す。この一言の有無で、相手の安心感は大きく変わります。安心して任せられる人は、だいたい数時間から半日以内に返信が来る印象があります。



白石さん
ここまでの行動に共通しているのは、特別なテクニックというより、相手を想像する姿勢です。
信頼は、突き詰めると、以下の3つに集約されるのではないかと筆者は考えています。ここからは、「行動し続ける」部分を具体的に見ていきます。
- 相手の状況をどれだけ想像できるか
- その想像をもとにどれだけ安心させられるか
- そして行動し続けられるか
信頼を積み重ねる、日々の行動


法人相手だからこそ、意識しておきたい鉄則がひとつあります。納期は少し長めに伝えて、早めに出すことです。
たとえば実質3日でできる仕事でも、余裕をみて1週間後を締切に設定するとします。ただし、その余裕を着手の先延ばしにつかってはいけません。「5日目から手をつければいい」と考えず、ほかの案件との兼ね合いを見ながら、できるだけ早く準備をはじめます。そして、締切より前に提出します。
これは、今日からでも実践できることです。



白石さん
おもしろいのは、10日締切を7日で出すのと、7日締切を7日で出すのとでは、同じ日でも相手の印象がまったく変わることです。前者は「前倒しして出してくれた」という印象になります。
冒頭でお伝えした「20時や21時に提出していないか」という話も、実はこの「早めに出す」という行動につながっています。
日勤の勤務が終わろうとしているタイミングで、急な対応を頼まれたら、少し身構えてしまう方もいるのではないでしょうか。クライアントが原稿を受け取るときの気持ちも、この感覚に近いものがあるでしょう。
早ければいいというわけではありません。ただ、こうして相手を想像する視点が身につくと、その意識は納期以外の場面にも自然と広がっていきます。
執筆のたびに細かく感じていた表記ルールや文字数の目安も、「なぜこの決まりがあるのか」を想像できるようになると、読者やクライアントへの配慮として腹落ちしていくものです。



白石さん
ひとつの意識の変化が、仕事全体を少しずつ底上げしてくれるのだと思います。
続けるほど、好きな仕事に近づいていく


法人案件で高い単価の仕事をとり、バリバリ稼ぐことだけがゴールではありません。それでも、法人案件を定期的に受けられるようになると、自然に単価も上がります。量をこなすことに必死だった仕事にも、ひとつひとつ向き合う余裕も生まれやすいです。
プライベートの時間ができ、クライアントワークにも精いっぱい向き合えるようになる、という良い循環が生まれていきます。



白石さん
筆者にとって看護師さん向けの取材のように、自分の得意分野や好きなテーマの依頼が増えていくのも、この好循環の延長にあります。
この好循環を続けるために、少しずつでも、「本当にここで仕事がしたいのかな」と思える相手との仕事を選べるようになっていけたら理想的です。そうすると、自然に似たような良い仕事や、不思議なご縁にもつながっていきます。
医療資格は、副業や下積みの理由ではなく、法人から選ばれ続けるための武器になり、いちばんの味方になってくれるものです。
だからこそ、小さなことから、ぜひ取り組んでみてください。











